玉突き(別バージョン)
作:keyswitch
「お兄ちゃん、早く早くぅ」
全く・・・今年高校生になったっていうのに、唯はまだまだ子供だね。
「あーっ、お兄ちゃん唯のこと子供だって考えてるでしょう!」
ぎく、何で判ったんだろう?
「お兄ちゃんはすぐ顔に出るから、何考えてるかぐらいわかるよーだ」
はぁ、さいですか。
・・・ボクってそんなにすぐに顔に出るタチなんだろうか?
「とにかく、早く準備してよ。久しぶりの旅行なんだから」
「・・・だったら、ボクの部屋から早く出てってほしいな。着替えが出来ないだろう?」
「照れてる照れてるぅ」
「・・・・・・・・・」
「出てってくれ・・・」
「はーい」
はぁ・・・
ボクの名前は『鷹野 瞬』(たかの しゅん)、今年大学に入ったばかりの18歳。大学受験も終わって大学生活をエンジョイしようと思ってる・・・古い考えを持ってるのかな、ボクって。
で、さっきから出てきてるのは『鷹野 唯』・・・え、同じ名字だし、「おにいちゃん」ってよばれてるから妹じゃないのかって・・・みんなから言われるんだよなぁ。これ。
彼女とは兄妹じゃない、ボクの恋人・・・「たかや ゆい」。まぁ、気づいたときには隣にいて、兄妹みたいに暮らしてきたのは事実なんだけど。ボクの3つ下で、今年高校に入学した15歳。
家が隣同士で、名字の文字が同じ・・・読みが違うけど、口にしない限りまず気付く人はいない。大体は兄妹と間違われる。
ボク達が生まれる前から、両親ともお隣同士のお付き合いなので、あまり気にはしてないけど。
今日は、ボクと唯の進学記念ということで、1泊2日の温泉旅行に行く予定になってる。
ボク達が小さい頃は、両方の家族でいろんな所に旅行してたんだけど、ボク達が上の学校に上がるに連れて時間の都合がつかなくなってきたことと、ボクの両親が2年前から仕事で海外へと赴任したことで、この頃は行く機会がほとんどなかった。
しかし・・・普通、単身赴任で父親だけが行くはずなのに、母親までが一緒についていって、子供だけを残すってのはどうなんだろうか?。しかも身の回りの世話を唯の家族に任せて・・・
「おはようございます、おじさん、おばさん」
「あ、おはよう瞬くん。そろそろ出ようと思ってるんだが、準備は出来てるかい」
「ええ、ボクの荷物はこれだけですから」
そういって、手にしたボストンバックを見せる。
「そう。じゃあ、いこうか」
「はい」
ボクと唯は後部座席に、唯の父親が運転席、母親が助手席に乗ったところで・・・出発。
そこに悪魔がいることも知らずに・・・ボク達は出発した。
「おとうさん、後どれくらいでつくの?」
出発してから1時間くらいたったかな。その間に何回この言葉を発しただろう・・・唯には『辛抱』って単語がないんだろうか?
「高速が混んでるみたいだから・・・あと2時間ぐらいはかかるんじゃないかな」
「えぇーっ、2時間もかかるのぉ。
だったらだったら、次のサービスエリアによってよぉ」
「わかったわかった・・・・・・・・・あー、やっぱり渋滞してるな」
そういって車のスピードが落ちてきて・・・停止する。
「渋滞情報はっと・・・」
そういって、おじさんはラジオの周波数をいじってる。高速道路上とはいえ、車自体が完全に止まっているので、よそ見してもぶつけるなんて事はないだろう。
何気なく、本当に何気なく後ろを見る。
目に入ってきたのは、後ろから向かってきた大型トラック。スピードが出過ぎている気がするんだけど。
まるで人ごとのように──そんな感じでなにげに見ていて・・・そのトラックがぼくたちの車に向かってきているのもあまり現実味がない感じがして・・・
ぶつかる直前まで頭が回っていなかった。未来を考えるのを拒否していた。もしトラックがぶつかったらって考えることを考えないようにしていた。
そして・・・衝撃・・・
その時、ボクの目の前にトラックがあった。でもそれは一瞬のことで、次の瞬間には・・・闇に包まれていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『本日、高速道路上で車10台が絡む玉突き事故が発生し、死者10名・重軽傷者20名以上という大惨事となりました。
渋滞により停車していた車の最後尾に大型トラックが追突したのが原因と見て、警察は大型トラックの運転手を業務上過失致死罪で緊急逮捕しました。
なお、お亡くなりになられた方の中で、身元が判明した方は以下の通りです。
鷹野 博之さん(42)
鷹野 幸子さん(41)
鷹野 瞬さん(18)
横山 雄二さん(40)
横山 陽子さん(38)
石垣・・・・・・・・・』
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次に気が付いたのは・・・ベッドの上なんだと思う。
周りには誰もいない。
ここは・・・病院・・・なんだろうなぁ・・・・・・・・・
ぼんやりと天井を見ながら、そう思う。
まだ意識ははっきりしていないけど・・・真っ白な部屋と、独特の消毒液の匂い。
ええっと・・・どうしてボクはこんな所にいるんだろう
確か、唯の家族と旅行に出かけて・・・渋滞して止まった所にトラックが・・・
ボク達は・・・事故に巻き込まれて・・・・・・・・・・・・・・・・・・
!!??
そこまで考えて、意識がはっきりとしてくる。
「唯!!」
思わず声を出して・・・・・・・・・!?
ボクの口からでた声は・・・唯の声?
思わず跳ね起きる。と、
目の前に鏡があった・・・そこに写るのは・・・唯の顔?
頭の思考が、麻痺・・・したんだろうか・・・なにが起こったのか、判らない。
だって・・・・・・・・・ボクが写らなきゃ行けないところに・・・唯の姿が映ってるんだから・・・
どれくらいそうしていただろうか・・・
「唯ちゃん!」
母さんの声が耳に入ってくる。唯のお母さんじゃない──ボクの母さんの声。でもボクの母さんは、今外国にいるはず・・・
「目が覚めたのね、唯ちゃん」
振り向くと・・・そこには確かに母さんがいた。
「母さん・・・ボクは一体・・・」
「どうしたの、『ボク』だなんて・・・それに『母さん』だなんて。まるで瞬みたい・・・」
ボクはボクだよ・・・唯は一体・・・
声に出そうとしたけど・・・・・・・・・出なかった。母さんに・・・抱きつかれたから。
「でも・・・よかった。唯ちゃんだけでも助かって・・・」
「・・・・・・・・・だけ?・・・・・・・・・」
「すぐに、先生を呼んでくるから待っててね」
そう言ってボクから離れると、母さんは部屋を後にした。
・・・・・・・・・だけ・・・・・・・・・
その一言が、なにを言いたいのか・・・すぐに思いつかなかった。
すぐに、白衣を着た医師と看護婦が部屋へと入ってきた。
後ろには・・・父さんと母さんが、心配そうな顔で立っていた。
医師達がボクの身体を確認し始める。・・・その身体は・・・確かに唯の身体だった。
「あの・・・ボクは一体・・・」
その言葉に・・・異常なしと判断したらしい医師が、今までの事を話してくれた。
その事実を聞いたとき、ボクは・・・また意識を失っていった。一番簡単な現実逃避の方法として。
そこで聞いた話は・・・
すでにあの事故から丸3日がたっていたこと。
ボクたちの乗っていた車は大破、原形もとどめていなかったこと。
唯の両親とボクは・・・いやボクの身体は、即死だったこと。
唯一、車に乗っていた4人のウチ、唯だけが奇跡的にケガ1つ無く助け出されたこと。
それが・・・ボク。
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意識が戻ったのは・・・時計は3時をさしている、暗いから真夜中・・・か。
また、誰もいない刻に目覚めた。でも、逆に誰もいないほうがゆっくりと考える事が出来そう。
今度は・・・ゆっくりとだけど・・・考えを巡らせることが出来た。
ボクは・・・ボクの意識は、唯の身体に入ったんだ。
普通じゃ考えられない。常識じゃありえない。でも、目の前の現実は・・・それ以外には考えられない。
ボクは・・・唯になっちゃったんだ・・・・・・・・・
そこまで考えて・・・じゃあ、唯は・・・唯の心は一体どうなったんだろう・・・
まさか・・・まさかとは思うけど、ボクと唯の心が入れ替わったとしたら。
だとすると、唯は・・・唯は・・・
唯は・・・死・・・・・・・・・
考えたく・・・ない。でも、考えてしまう。
ボクは助かった。でも、唯の身体として。そして唯は・・・もういない。
まるで夢遊病者のように・・・部屋を後にして、病院内をさまよっていた。
そして・・・いつの間にか屋上にいた。
雲一つ見当たらない満点の星空が目の前に広がっている。この光景・・・どこかで見たことがある気がする。
デジャヴ・・・違う。
数年前、無理矢理唯に連れられて行った河原の土手。その年は獅子座流星群の当たり年で、シャワーのような流星が見られるってTVのキャスターが言った言葉を信じて、夜遅く・・・いや、東の空がうっすらと白み始めるまで二人で夜空を眺めていたときの星空とそっくり。
・・・結局その時は、数個しか流星は見られず、がっかりしたんだったっけ。
もう、二人で星空を見ることもかなわないんだ。
星が流れる。
思わず願いごとを考える。条件反射だね。
『唯が生きています様に』
考えて・・・言ってから苦笑する。そんな事は絶対に有り得ない。
唯の身体は、今ここに生きている。でも中身はボクなんだ。唯じゃないんだ。
もし、唯の身体で──唯の心が入っていれば何の問題も無かった。ボクが替わりに死んでいたんだから。
その方が、何倍も──何十倍も良かったことだろう。
頬を冷たいものが伝う。
涙。
後悔の涙。
今回の旅行を考えたのは・・・ボク。宿の手配をしたのも、日程を決めたのもボク。ルートを決めたのもボク。
もし、こんな旅行の計画をしなければ、みんながずっと幸せでいられた。唯も両親と幸せに暮らせた。ボクが唯と、唯の家族全員を殺してしまったも同然なんだ。
ボクは、落下防止の手すりのところまで進んできていた。
唯の身体になってまで生きていけるほど、ボクは図々しくない。もし図々しかったとしても、唯のいない世界で生きていける自信も無い。
今まで考える機会が無くて、考えてこなかったけど・・・ボクにとって、唯は心の支えだったんだ。彼女がいたからボクはやってこられた。なんだってそうだった。いつだってそうだった。
だから・・・唯のいない世界ではボクも生きていく自信は・・・ない。
手すりを乗り超える。後数歩前へ行けば、全てが終わる。そう思った。
と・・・目の前に、何かが有った。
いや、訂正。誰かが・・・いた。先客?
まさか。自殺したいって考える人がたくさんいることは知っている。でも、確率的に同じ時間・同じ場所で自殺しようなんて思う人が二人いるなんて事は、無い・・・・・・・・・と思いたい。
でもそこには、確かに人がいた。
「お兄ちゃんが死んで・・・私は誰とも知らない他人になって・・・・・・・・・もう生きていく資格なんて無い・・・よね」
声からして、まだ小さな男の子。
男の子のつぶやきが、ボクの耳に届く。
その声は・・・何かを決心した声。何を?
解ってる。今ボクが出していた声と同じ、死を覚悟した声。
この子・・・死ぬつもりなんだ。
「やめ・・・なよ。死んでも何も変わりはしないよ」
何気無く・・・声をかける。別に本心で止めるつもりはなかった。ただ、目の前で死んでゆくのを見たくなかっただけ。
「え・・・・・・うそ・・・・・・なんで・・・・・・・・・」
男の子は・・・私のほうに振り返る。そして私の顔をじっと見つめている。
男の子は、小学生高学年〜中学生くらいだろうか。可愛いという形容詞がぴったりと来るような幼い少年だった。
「なんで・・・・・・私の身体が・・・・・・ここに・・・・・・・・・貴方は・・・・・・だれ?」
呆然とした顔で近寄ってくる男の子。
「君こそ・・・誰なんだい?」
「私は・・・唯・・・鷹野 唯のはず」
「唯・・・なのか?」
「そういう、私の身体を持ったあなたは一体」
「ボクは鷹野 瞬・・・」
「まさか・・・・・・・・・お兄ちゃん!?」
「本当に・・・君は唯なのか?」
十分絡まった糸をさらに絡ませる結果になってしまったようだった。
お互い、目を合わせたまま、まったく動けなくなってしまった。
でも、もしそれが事実ならば・・・唯は生きている・・・
とにかく、どちらかの部屋へ戻って詳しく話をしようということになって、先ず彼の部屋へと向かう。
そこには『横山 ナオ』ってプレートと『面会謝絶』のプレートがかかっていた。
「何も無いけど、適当なところに座って」
「あ、ああ」
本当に何も無い部屋だった。有るのは検査用の機械とベッドだけ。お見舞いの定番の花束やフルーツバスケットもない。
「どこから話そうか」
「まず、唯の心がなんで、その子の身体に有るかだけど」
「それはやっぱり・・・玉突き事故じゃ無いかなって思う。今思いついたんだけど」
「玉突き事故?」
「そう、車の玉突き衝突といっしょよ。
まずは事故で押し出されたお兄ちゃんの心が、私の身体の中へと入り込んだ。
お兄ちゃんの心が入り込んだ私の身体は、私の心を押し出してしまった。
押し出された私の心は、私達の前で事故に巻き込まれた車の中の男の子へと入り込んだ。
私が入った時点で、押し出した感じが無かったから、私が入る時点でこの子はすでに死んでいたのかもしれないわね。実際はどうなのか解らないけど」
「つまりは、ボクの心は唯の身体に、唯の心は彼『ナオ』に、玉突きのように移動した・・・と」
「うん。そう考えた方が合理性が有るわ」
「こんな事が合理性を求められてもどうかとは思うが」
「そんな所はお兄ちゃんらしいわね」
「でも・・・・・・・・・これからどうなるんだろう」
「そう・・・なんだよなぁ。唯の両親も亡くなってしまったし」
「うん・・・聞いた。おまけに、この身体の両親も同じように亡くなってるんだ」
「ボクの身体ももう無い」
「・・・・・・・・・」
カーテンに朝日がさし始めた。もうそろそろ朝になる。
「どうしようか、お兄ちゃん」
「唯の今持っている身体の、両親以外の家族構成はどうなっているんだ?」
「・・・・・・・・・二人とも孤児だったらしくてね、この子はどこにも行く宛てがないんだって。もし引き取り手がいないとそのまま孤児院へ行くことになるらしいわ」
それで・・・誰もお見舞いにこないからこんなガランとした病室なんだな。
でも・・・それなら・・・
「唯」
「何、お兄ちゃん」
「今日1日待ってくれないか。何とかしてみせるから」
「・・・・・・・・・うん。お兄ちゃんが約束やぶった事ないものね。解った。待ってる」
そして、自分の病室へと戻る。
病室では、
「唯ちゃん、どこへいってたの?」
ボクの・・・瞬としての母が待っていた。
「唯に、会いに行ってきた」
もう・・・隠さない。有りのままの事実を伝える。
「唯ちゃん・・・唯に会ってきたってどういう事なの?」
「言葉の通りだよ。母さん。
ボクは・・・この姿は唯だけど、心は瞬・母さんの息子の瞬なんだ」
「そ・・・そんな・・・そんなことって・・・」
「そして、唯は、同じ事故に会った『横山 ナオ』って子の身体の中にいる」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「そこで、お願いしたいんだけど、その『横山 ナオ』って男の子を父さんと母さんの養子として迎えて欲しいんだ」
「よ・・・養子に?」
「もし、ボクの言うことを疑うんだったら、直接彼のところへ行って話をすればすぐに解るはずだよ。
彼は見た目は母さんとは一度も会ったことの無い赤の他人。でも、心は唯だから、ボク達の家族のこと、唯の家族・・・の思い出を事細かに知ってる」
唯の家族はもういない・・・思い出しか残っていないんだ。
しばらく考えた後・・・母さんは、
「解りました。唯ちゃんが言ってることが正しければ、唯ちゃんも瞬も、姿は変わったとは言え生きているんですから、前向きに考えなければ」
「母さん」
「ただし、そのナオちゃんに質問はさせてもらうわよ」
「ああ、何でも聞いてやってくれ。唯が知ってることならすぐ出てくるはずだ」
「クスッ」
「?・・・どうしたの、母さん」
「あなたのその話し方。瞬そのものね。唯ちゃんの姿だけど唯ちゃんじゃないことははっきりと解ったわ」
「ちぇ」
その後、母さんと神経科の先生、それにボクの立ち合いの元、確認が始まった。
ナオは、母さんの質問に何の濁りもなくすらすらと答えていった。肉体的にはナオと母さんは赤の他人──1度も顔を合わせたことが無いはず。にもかかわらず躊躇無く、間違い無く答えていく姿は・・・
「我々にはお手あげですね」
精神科の先生が音を上げることになった。
ここまでくれば、母さんも彼女のことを唯だと認識できるだろう。
「じゃあ、最後の質問・・・いい?」
「ええ」
「唯ちゃんは、瞬のことをどうおもってる?」
って、母さんはなんて質問してんだよ!!!
ナオ・・・いや、唯は、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。そして、蚊の泣くような小さな声で、
「愛してるよ」
一言・・・つぶやいた。
「じゃあ、瞬は唯ちゃんのことどう思ってるんだい?」
いきなりこっちに振るかぁ。
「去年答えなかったっけ?。大学卒業したら、唯と結婚したいって」
多分、ボクの顔も真っ赤になってたと思う。
「ふむ、どうやら、間違いはなさそうだね。瞬、あんたの言う通りこれから養子縁組みの手続きをしてくることにするわ。横山 ナオと鷹野 唯の二人を・・・ね」
「か、母さん」「おばさま」
「二人は2度と帰ってくることはないと私は思ってた。99%あきらめてたの。でも、帰りの飛行機の中で一縷の望みを捨てなかったのも事実。もしかしたら万分の一、いや億分の一でも可能性がある限りあきらめるつもりはなかった。
その奇跡が私の目の前に有る。姿は変わったかもしれない。でも、確かに二人とも私の目の前にいる・・・それだけで私は満足よ」
「母さん」「おばさま」
「唯ちゃん・・・じゃ無かった、ナオちゃん」
「は、はい」
「おばさんじゃないでしょ。今日からは・・・・・・」
「お・・・お母さん」
「それで良いのよ。じゃあ、手続きをしてくるわね」
母さんや、先生方は部屋を出て行き、残ったのはボクと唯・・・いや、ナオだけ。
「相変わらずパワフルなお母さんね」
「あれだけがとりえだからね」
「でも・・・」
「ん?」
ナオはいい淀んでる。
「性がひっくりかえっちゃった・・・ね」
「あ・・・うん」
「結婚・・・したかったけど・・・出来るかどうか心配になって来た」
「なぁ、ナオって、いくつなんだ?」
「今年中学2年・・・13歳」
「2歳年下・・・か。不可能じゃないけど」
年上女房にしても夫18で、妻20じゃあ・・・5年かかる上に、周りに認められるのが一苦労だろうなぁ。
「これから・・・どうなるんだろう」
「とりあえずボクは唯として・・・唯はナオとして生活していかなければ行けないんだろうなぁ」
「性が変わったお兄ちゃんには・・・かなりきついかもしれないよ」
「やる前から心配してもしょうがないだろう。それに、唯・・・じゃないナオも一緒なんだぞ」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん・・・じゃない、お姉ちゃんが一緒にいてくれるんでしょう?」
「もちろん。・・・・・・・・・なら、そんな先のことを心配するのは止めようか」
「そうだね」
「あ、お兄ちゃん・・・じゃないお姉ちゃんか。一つお願いしてもいい?」
「ああ、なんでもどうぞ。お姫さま・・・いや、王子様」
「キスしてくれる?」
「キス?」
「お兄ちゃんとして、唯への、最後のキス」
そう面と向かって言われると・・・照れてしまう。
「普通、お姫様に王子様がキスするんだろう。反対でもいいのか?」
「ん・・・いいよ」
そして、お互いの唇が・・・・・・・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
私・唯と弟のナオは、今、海外にいる。
養子縁組みも無事終了して、私達は家族となった。名前も『鷹野 唯』(たかの ゆい)『鷹野 ナオ』(たかの なお)と変わった。ボクの場合は、読み方が変わっただけだけど。
そのまま日本でくらしても良かったのだが、どうしても世間の目というものが有って、前よりも住みづらくなってしまったのだった。
そこで・・・父さんの働いている海外へ行くことに決めた。何もかもリセットするために。
場所は南の楽園。天国に一番近い島。
時間がゆっくりと流れていく・・・不思議な島。
ボク達も仕事をもって働いている。結構この島へは日本からの観光客が多い。その為に通訳が慢性的に不足しているのだ。生まれはここでなくても、一応の現地の生活用語と完璧な日本語が話せるボク達は、通訳としてはうってつけで、引きもきらぬ忙しさだ。
最も学生の身分なので、1日中という訳にも行かず数時間程度しか仕事が出来ない。でも、収入はこの島の1人分の平均月収をボク達は1人で1日で稼ぎ出してしまう。
だから・・・この島の平均から言えば結構お金持ちなんです。日本ではそうは行かないかもしれないけど。
はっきり言えば・・・すでに結婚資金は貯まってます。村をあげての結婚式にしたいと思ってるから。
この結婚式には別の理由も有る。村の一員になるという意味も含まれている。
もう結構うち溶けているけど、それでもまだボク達は彼らから見たら部外者らしい。お互いそんな事おくびにも出さないけど。でも、結婚式を村であげる事で初めてボク達は村の一員として認められる事が出来る。
それは・・・この国に永住する事も意味するんだけど・・・ボク達は、すでに日本へ帰るつもりは毛頭ない。こっちの方が何倍も何十倍も暮らしやすいから。人も自然もボク達を受け入れてくれたこの世界が。
「来て良かった」
「ほんとに」
雲一つ無い星空を見上げながら、ボク達は肩を合わせてのんびりとしている。
今までと違うところは・・・ここは砂浜。BGMとして波の音が聞こえてくる。
「ねぇ、ナオ。本当にいいの?」
「唯姉が最初にいい出したんじゃないの。それともいやなの?」
「いやな訳ないじゃないか。ナオとずっと暮らしていけるんだから」
「じゃあ、何の問題も無いよ」
「うん」
「ナオが15になったら」
「結婚するんだ」
「そして・・・一緒に暮らすんだ」
「うん」
この国では成人(18歳)であればもちろん、未成年であってもお互いの両親の承諾さえ取れれば未成年でも結婚が認められている。父さんと母さんにはもう承諾は取ってある。後は年齢が二人とも婚姻可能の15歳を越えれば・・・・・・・・・あと、1年半。
砂浜の二人は、お互いを見つめ・・・そしてどちらからともなく・・・唇を重ねた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
fin
ども、mk8426です。keyswitchさんから連日いただきもので恐縮のあまり飛び跳ねてしまいそうです(ォィ)。下の階の住人に迷惑なのでやりませんが(爆)。
自分(の心)が恋人の身体に入ってしまっていること。その恋人(の心)は行方不明、最悪なら死。全てを失い、自殺しようとして出会った少年は実は・・・。感動です。前回の作品も感動でしたが、さらに感動ですね。
ところで、この作品はタイトルに「別バージョン」とあることでおわかりのように、元々のバージョンが存在します。keyswitchさんのご厚意でそちらの方もアップしておりますので、この下のリンクから飛んでください。
いきなり休日が入れ替わって(「日誌」参照)戸惑っているmk8426でした(笑)。
2002.04.09 mk8426