mk8426の「仮」ぺえじ!70000ヒット記念寄贈作品

 

 

 

女神

作:keyswitch

 

 


 明日は僕の15歳の誕生日。今日、僕はこの街を後に神殿へと向かう。
 僕が生まれてからずっとすごしてきたこの街とも…今日でお別れになってしまうのだろうか。
 …大好きだった、マリアとも…今生の別れになっちゃうのだろうか。
 それだけは…嫌だ。

 

 僕がこの街で生まれたのは今から15年前、星がまるで滝の様に流れた日のことだった。
 この国には、『星が流れた日に生まれた子供は、神になる資格をもっている』なんて信じられないような伝説があった。
 そして、その資格を持った子供は、15歳の誕生日を迎える日に、神殿へと行き判断が下される。
 認められなかったときは、そのまま元の生活へと戻る事が出来るのだが、認められたときは…今いる世界から別れて、神が住むといわれている天界へと行くことになる。
 そして…天界で更に力を認められたものだけが、神になる事が出来るとの噂だった。
 真実を知るものは誰ひとりとしていないから、本当はどうなのかなんてまったく解らない。
 でも…しきたりとして『神殿』へ向かうことは逃げることの出来ない事実。

 

 僕は…神殿になんて行きたいとさえおもっていない。はっきりと言ってしまえば行きたくない。もし認められてしまうと、もう両親や街のみんなと会うことが出来なくなるから。いや、それ以前に神殿に入るという事は、二度と今まで通りマリアと一緒に暮らす事が出来ないという事。
 何故なら…

 この世界の神に男性の神はいない。つまり、全て女性の神…女神なのだから、神殿に入るという事は、すなわち女性になるという事…男は入る事が出来ないのだから。
 変に思うかもしれない。だって、男性が女性になるなんて普通に考えればあり得ない事なんだから。でも…神殿の入り口・審判の門を通過する時、それは起こる。
 資格の無いものはその門をくぐることさえ出来ないが、資格のあるもの―――つまり、認められたもの―――が通ると…女性ならば何の変化も無いが、男性だった場合は女性に変化してしまう。そして、1度門を通過できた男性は、二度と元の姿に戻る事が出来ない―――それ以降は、一生女性として暮らさなければいけない―――のだから。
 そうなってしまった人は現実に存在する。だから、これだけは否定しようの無い事実。
 だからこそ僕は、門をくぐれないことを心から願っているのだ。

 

 

 丸1日歩きつづけて…

 そして今、僕は門の前にいる。
 門の向こう側には、神殿を守る司教様(もちろん女性)が立って、僕が通過できるかどうかを見守っている。
 …通りたくない。今すぐここから逃げ出して元の街へ帰りたい。でも、判断を受けずに帰る事は許されていない。もし逃げ出すと、住んでいる街の人達に不幸が訪れるなんて噂があるから。
 もちろん迷信だと信じたい。だって、そんなふうになった街の事は聞いた事が無いから。でもそれは、逃げ出した人が誰一人としていないという事の裏返し。

 覚悟を決めて…僕は足を踏み出した。
 1歩、また1歩、門へと近づく。
 ………そして………

 

 

 神殿の中、『清めの部屋』と呼ばれる湯浴みの部屋で、僕はこの世界との別れの為に身体を清めている。
 そう…僕は門を通ってしまったのだ。認められてしまったのだ。そしてそれは、僕自身が女性になってしまった事を意味していた。
 門を通った後には、短かった髪も腰の辺りまで伸びていて…鍛えたはずの筋肉も無くなり、女性らしい丸みを帯びたラインになっていた。
 そして…確かに男の時も中性的な顔だちではあったものの、今では本当に伝記などに描かれているような優しさを帯びた、美しいというよりも優しいという形容詞がぴったりと当てはまるような顔だちに変化していた。最初鏡をみた時は、一瞬誰が写っているのか解らなかったくらいだから。

 

「用意は…出来ましたか?」
 司教様から声がかかる。用意といっても、別に物質的な何かを持っていける訳ではない。それは心の用意。
「………はい」
 僕…いえ、私は返事を返す。
「では、行きましょうか」
 そういって、神殿の奥―――神の間―――へと案内される。

 そこにあったのは…人の高さよりも大きい1枚の鏡。でも、その鏡に写し出されているのは、ここではない別の場所。多分…神の世界―――天界―――。
「この鏡を通る事が出来れば、あなたは神の領域へと行く事が出来ます。もし、通れなければ…」
 そのまま、元の街へ帰る事も出来る。でも…私には…もう…
「司教様、一つお願いがあります。この手紙を、私の故郷のマリアという女性に渡してもらえないでしょうか?」
 そういって、1枚の手紙を差し出す。先程書いたマリアへの別れの手紙。
 私がマリアを大好きだった事・私自身が女性になってしまった事・二度と会えない事。そして、これからは神の世界からマリアを身守る事を約束する事を書いた…最後の手紙。

 司教様は何も言わずその手紙を受け取ってくれた。
 もうこれで、この世界への未練は………無い。

 

 私は…鏡に手をかざし…そして、その手は鏡をすりぬけ………私は天界へと旅だった。

 

fin

 

 


・・・・・・前略・・・・・・
>ということで、キリ番踏んでしまった以上、何かしなければ…と思ったのですが、
>現在非常にというかすさまじく忙しい&ネタがない(こっちの方が重要かな?)状態です。
>なので…すさまじい短編になってしまいました。
>(ボツネタから引っぱり出して、TS系に…元は女の子だったのですけど(^^;)
・・・・・・中略・・・・・・
>『こんなんTSじゃないわぁ』でしたら、即座に捨ててください。

というkeyswitchさんからのメールと共に贈られてきた短編、ありがたくいただいてしまいます。
なかなか神秘的なお話です。短い中で、主人公の葛藤から悟り(?)の境地まで、見事に表現されていると思いました。
「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という言葉がぴったりだと思います。
すばらしい作品を、ありがとうございました!

2002.04.07   mk8426

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