和美ちゃんスクールライフ

和美ちゃん 34話

作:kagerou6

 

 

「今日も暑いよねぇ」

佳子は下敷きで扇ぎながら窓の外に目を向けていた。
「こんな天気の日は海にでも行って泳ぐのが一番なのに、なんであたしがこんな所にいなきゃなら無いのよ」
「成績がボロボロだったからでしょ。和美これはどう解くの?」亜紀が佳子の愚痴に突っ込む(笑)
「それはここのところにこっちの代数を当てはめて」ぼくはシャープで印をつけて亜紀に説明していると、佳子の顔には情けないと言わんばかりに皺が寄る。
「せっかくの夏休みだよ、こんな教室で勉強していて悔いが無いわけ?」
「普段きちんと勉強していればいなくても良い事なんじゃないの?」と、ぼく。
「だってやること多いじゃない。学校終わってからそれこそ勉強するヒマ無いくらい」
「授業をきちんと受けていれば問題無いと思うけど。実際斉藤さんは塾とか行ってないからね。田中そこ違うだろう!」佐藤は佳子に答えながら田中の勉強の間違いを指摘していた。
「あたしの夏休みを返せ!」佐藤に正論を言われ叫び出す佳子!

「「ぼく達は付き合いだって事を忘れるな!!!」」

ぼくと佐藤は佳子に教科書を付きつけながら声を揃えて言い返した。

夏休みも7月の終わりが近付き、各地で行楽の便りが届いていたが、ぼく達は夏季講習(という名の補習)をしていた。
この講習は”自主的な勉強では心配”(笑)だという生徒を対象にしたもので、姉が配慮して佳子と亜紀・田中の参加を決め”させ”た。
さらに姉は”自由参加歓迎”とふれ込み(笑)、希望者を募って一般生徒も集めた。
しかし、これは”ぼく達”を付き添わせる名目以外の何物でもなく、事実希望も出していないのにぼく達がここに居るのはそんな理由なのだ(爆)。
しかし参加者はぼく達の他には誰も居ないので、”いつものメンバーによる”勉強会という感じになっている。
そのせいか佳子はさっきから苦情ばかりを言っていて、渡されたプリントが全然進んでいない。
「2学期にはちゃんと成果を出さないと、姉さんも内申書どうしようって言ってたんだけどな?」そう言ってなんとか佳子をプリントに向けさせても、数分後にはまた脱線してしまう。
結局、手を変え品を変え佳子を上手く勉強させようとしたけどどれも短時間でダメになってしまうのだ。
ぼくは愚痴をこぼし廻りを巻き込もうとしている佳子を見て頭を抱えるしかなかった!

「じゃあぼくはそろそろ・・・」佐藤はそう言い席を立って出口に向う。
「部活か?・・・じゃあ俺も行くかな」と高木も続いて教室を出ていく。
「ぼくはどうするかな」ぼくもそう言って席を立つと佳子に袖を引っ張られた。
「和美はあたし達の事見ていてくれるんじゃないの?」と泣き顔の佳子。
「見ていてあげたいけど・・・そうも言ってられないみたいだし」ぼくがそう言うと不思議そうな顔になる佳子。
「だってほら・・・姉さんがこっちを見てるよ?」ぼくは教壇からこっちを見ている姉に顔を向け佳子に答えた。
「和美は休憩してていいから・・・後は今のプリントの復習ね!」そう言って佳子の前にデン!と座ると、新しいプリントを残った三人の前に並べた。
「「「うぅぅぅぅ・・・」」」口から声が漏れ力なく崩れる三人(爆)。
「まぁまぁ・・・帰りになにか美味しい物食べて帰ろうね」
「薄情モノ〜〜〜〜」恨めしそうな佳子の声を後にぼくは教室を後にした。

「さてと・・・昼までどうするかな」亜紀と佳子の付き添い(笑)で来ているから、二人が補習を始めると何もする事が無いのだ。
図書館で時間でも潰そうと体育館の脇を通ると”パシ!パシ!”となにかを叩いているような音が聞こえた。
「あれ?・・・なんとなく聞いた事のあるような?」なんとなく興味が沸ききょろきょろしていると、それは体育館ではなくその隣の小さな館からしているようだ。
「・・・”武道館”・・・と、するとあの音は・・・」ぼくはなんとなく音の正体が判り窓から中を覗くと、剣道部が威勢良く練習をしている。
「やっぱり・・・剣道部か」音の正体を確認し納得して振りかえるとそこに佐藤が立っていた。

「イヤー!」
パシパシ
「セッイヤー」
バスンバスン

掛け声が武道館に響き、剣道着を着た部員達が所狭しと動き回り練習をしている。
「皆、練習止め!」練習を見ていた部長らしき男子が大声で叫ぶと、その声に部員達の動きが止まり部長の前に集まってくる。
「練習はここまで・・・休憩に入るぞ」部長の一言にふぅーとため息が漏れる。
「今日で合宿も最後になるが、お前達も知っているように午後からは伝統の対抗試合がある」部長の声が飛び全員が「ハイ!」と元気よく答える。
「この試合で地区大会の選手を決めるつもりだ、余りに無様だと出れないからな!?」部長はそう言って部員を見つめるが、自信があるのか誰も文句など言わないでいる。
「では各自休憩。時間まで休んで良し!」部長の掛け声に部員は散らばったが、自分の武具の手入れを始めていた。
「さすがというか・・・凄いもんだね」
「普通だと思うけど・・・なんたって大事な武具だからね」佐藤は当たり前といわんばかりに答える。
「でもさ、佐藤君は引退したのに指導じゃなくまだ稽古もしているんだ」剣道着を着ている佐藤にそう言うと、佐藤は照れた顔つきになる。
「竹刀を振るだけだよ・・・癖みたいなものでね、気持ちが落ち着くんだ」
「そんなものなのかな」ぼくがそう言うと佐藤もどう答えて良いのか判らないようで、手にした竹刀に視線を落とすだけだった。

「せ、先輩!」ぼくと話をしていた佐藤にさっきの部長が慌ててきて何かを耳打ちしている!
「え!それでどうしたんだ?」話の内容に佐藤も驚きを隠せないのか、部長を見つめ聞き返す。
「顧問の先生が病院まで連れていきました、しかしそっちの代わりは」部長の言葉に佐藤も腕を組み考え込んでしまっている。
「なにかあったの?」真剣な表情の二人にぼくが声をかけると”う〜〜ん”とうなり俯いているままだ。
「佐藤君?」考え込んでいて声が聞こえなかったのか、もう一度声を掛けると佐藤はハッとした顔つきに変わりぼくの事を見つめた。
「あの、斉と・・う・・」そう口を開きかけた佐藤であったが、言葉を詰まらせまた考え込んでしまう。
「あのさ、もしぼくに出来る事なら遠慮しないでいいからさ」そう言うぼくに佐藤はさすがに驚いてぼくの事を見つめている。
「話を聞いただけだけど、何か大変な事になっているんでしょ?」
さすがに二人はぼくの言葉にゆっくり頷いたが、まだなにか戸惑っているようで何も言わない。
「佐藤君クラスメイトでしょ?困った時はお互い様なんだからさ、ぼくに出来る事なら良いよ」
「実は食事の事なんだよ」佐藤はやっと口を開けた。

「食堂の人が合宿中のご飯を作ってくれていたんだけど、さっき鍋を倒してしまって火傷をしてしまったんだ」佐藤はぼくを隣の厨房に案内してそう言った。
「え、その人は大丈夫なの?」佐藤の言葉にぼくが聞き返すと脇にいた部長が代わりに答える。
「幸い、すぐに冷やしたし顧問が病院に連れていきましたから」
「そう、それならよかったね」
「確かにそうなんだけど」佐藤はそう言って黙ってしまう。
「顧問が校長に連絡してなんとか他に人がいないか手配をしているみたいなのですけど」部長はそう言ってちらりと時計に目を向けた。
もう11時を廻っていて今すぐにでも来ないと、昼食は大幅に遅れてしまうのだ。
「合宿の相手の都合もありますから、余り遅くなるようなら迷惑が掛かりますし」
「確かにそうだよね」部長と佐藤君の言葉にぼくも頷くしかなかった。

「今日のご飯はなんだろな♪」一人の部員がそう言いながら厨房を覗きこんできて、きょろきょろと廻りを見渡している。
「もうすぐお昼だよなぁ・・・今日のメニューは????」そう言ってテーブルを見て言葉をなくした。
材料が山のように積まれていて、しかもいつも作ってくれている人がいない事に気付いたからだ。
更に部長と佐藤君(とぼく)が真剣な顔で何かを相談しているのだから、異常な事態に気付くのは一瞬だった。

「昼飯どうしたんですか!?」

その部員は武道館に響き渡る声を出し(さすが運動部(笑))、それを聞きつけた他の部員までが集まり一瞬状況が知れ渡ってしまった。
「料理をしてくれる人が怪我をしていないんだ」さすがにもう隠すのが難しいと思ったのか部長が部員に顔を向けるとそう説明を始める。
「「「それじゃあ飯は?」」」
「校長が他の人を当たってくれてはいるが」苦い顔で答える部長に部員達がざわめき始めてしまう。
「試合は1時からなんですよ?間に合うんですか!」
「俺達に腹ペコで試合をしろって?」”昼食が食べられないかも”と感じた一部の部員がそう言いながら部長に詰め寄っていく!
「そ、それは今手配を」さすがに部員の迫力に負けたのか、部長は段々後ずさりをしてぼく達の前まで詰め寄られてしまった(爆)。

「はいは〜い!そこまでね!」

ぼくはそんな彼らの前に立ち手を鳴らして、詰め寄っている部員達の前に出て彼らを見つめた。
さすがに理性が(少しだけ)残っていたのか迫るのを止める部員達。
「もう、君達も十分大人なんでしょ?部長に責任がないくらいは判るでしょ?」ぼくにそう言われさすがに動揺が隠せないらしく、目線を空中に向けて誤魔化す彼ら。
それでも一部には食欲が勝りぼくに言葉を投げるものも当然いる。
「ですが先輩、腹ペコで戦って負けて、それが実力と思われたら・・・」
「まぁそれは判らないでもないね・・・それじゃあ食事できれば文句ないの?」そういうぼくの提案に部員は当然だと言わんばかりに頷いて答える。
「じゃあぼくがお昼を作るからそれで我慢してくれないかな?」ぼくがそう言うと部員達の表情が一瞬で固まり、驚いた顔でぼくの事を見つめ始める。
「ぼくじゃ拙いかな?・・・そうだよね、プロじゃないからたいしたモノは出来ないから・・・」

「「「先輩のがいいです!!!(きっぱり)」」」

手を力いっぱい握り締め答える彼ら(笑)
「じゃ、じゃあ今から作るから片付けしておいてね」いきなりの返事にぼくがそう言うと全員が頷いて、波が引くように調理室から消えていった(爆)。

「斉藤さん」さすがに佐藤はやり取りを見ていて心配になったのか聞いてきた。
「勝手な事言っちゃってゴメン、でもみんなの気持ち判らないわけじゃないから」ぼくは佐藤にそう言ってからテーブルに置いてある材料に目を移した。
「キャベツにトマトか、これは鶏肉かな」ぶつぶつ言いながら材料を確認して携帯を取りだし姉に電話を掛けた。
「そういう事情じゃ佳子さんと亜紀さんを応援に向わせるわ」姉はぼくの応援要請にそう言い、更に部長に電話に出るように告げた。
「事情は聞いたわ・・・いいこと?和美のご飯食べるんだから試合に負けたら単位が無いと思えよ!」携帯から恐ろしい言葉が流れだす!
「わ、判りましたぁ〜!!!」さすがに部長も姉がどういう人なのかよく知っているらしく背筋を伸ばし答える。
部長は僅かに手を震わせぼくに携帯を返すと武道館に戻っていく。
「さてと、では始めますか」ぼくは腕まくりをして置いてある鍋に水を入れコンロに乗せた。

「20人だからいくつくらい準備すれば良いかな」そう考えているとドアを開け佳子と亜紀が入ってきた。
「これ一箱全部でいいんじゃないの?」そう言って箱をテーブルに載せ、中から袋を取り出していく。
「ありがとね、でもこんなにも要らないとおもうけど」
「和美もまだまだ甘いわね・・・運動部の男子が普通の一人前で足りると思うの?」
「それはそうかもしれないけど・・・全部までは要らないでしょう?」そう言うぼくの前で佳子は300g入りの袋を20取り出し、箱を空にしていた。
「け、佳子それじゃあいくらなんでも多過ぎだよ」
「なに言っているの?これは”あたし達のお昼”でもあるんだよ♪」佳子はそう言って笑う。
「もうちゃっかりしてるなぁ」そんな佳子を頼もしく思いながら後何が必要か考えていると後から声が掛かった。
「和美、このお肉まさか生で食べさせるつもりなの♪」そう言って亜紀は鶏肉を突つきながら笑っているではないか。
「それ鶏肉でしょ?から揚げにしてサラダに添えようと思っているんだ」
「だったら揚げるんでしょ?、油を準備しないとね♪」亜紀はそう言いながら揚げ物の用に鍋を出し、油を入れコンロに乗せた。
「あはは、そだね」ぼくは更なる援軍に感謝をしながらお皿を人数分取り出していく。
「とりあえず、トマトの缶詰があったしミートソースもあると・・・これでいいかな?」
「サラダだけだと寂しいね、スープも欲しいけどあるかなぁ」
「スープね、何か材料があれば」佳子はそう言い別な箱を開けると中にあった缶詰を取り出してラベルを確認していく。
「コーンが良いかな、それともかぼちゃかな」そう言いながらいくつかの缶詰を選り分けテーブルに置いていく。
「スープは佳子に任せておけばいいとして・・・パスタだからオリーブオイルとニンニクチップに・・・」亜紀も棚の奥から色々と取り出しテーブルに置いていく。
「ありがとね・・・皆・・・」ぼくは二人に声をかけパスタの袋を切りそれを鍋に入れた。

「はいは〜い、お待たせしました〜♪」ぼく達がパスタとスープを持って武道館に入っていくと部員達がテーブルを並べて座っていた。
「遅くなってゴメンね・・・ちょっと時間が掛かっちゃって」ぼくがそう言ってペコリ頭を下げるとブンブンと顔を振る彼ら(笑)。
「じゃあ順にいくから後少し我慢してね」ぼくは亜紀の盛りつけたパスタを部員の前に順に置いていく。
「スープもあるからね」と、佳子はお皿を置きスープを静かに注いでいく。
「皆がお代わりするくらいあるから一杯食べてね」ぼくがそう言うと一斉にフォークが握られた。
「ふぅ〜何とかなったね」佳子はそう言ってぼくの肩をポンと叩いた。
「二人ともありがとね、ひとりじゃどうなった事やら」ぼくは亜紀と佳子にそうお礼を言う。
「なになに、これくらい何てことないって」
「まぁ困った時はお互い様だし・・・そう改まって言う事でないよ」佳子はそう言って笑っている。
「そだぞ?佳子なんていつも和美に迷惑かけて困らせてるもんね♪」亜紀がそう言って笑うと佳子と睨み合っている♪
「あはは、なんて言えばいいのかなぁ」二人の様子にぼくはただ笑うしかできないでいた。

「ちょっと余っちゃったね」ぼくはトレイに残っているパスタを見ながら呟いて、大皿にそれを載せかえる。
「大丈夫だよ、運動すればお腹空くし直に無くなるよ」佳子はそう言って食べ終わったお皿を片付けていた。
「ならいいけどね、せっかく作ったんだもん無駄にしたくないし・・・あれ、お皿が少なくない?」
「そう?人数分あるんじゃないの」
「食べてない人いるのかな?」
「和美のお料理食べたくない人なんていないわよ」佳子もそう言って自分の言葉に何か気付いたらしく腕を組んで考え事をしている。
「とすると、そうだね」独り言を言いながら何かを思いついたのか、亜紀に近寄り耳打ちしている。
佳子から話を聞いているうちに亜紀にも笑顔が浮かんで頷くと、二人して部員達に何やら耳打ちをし始めた。
「なにしてんの?」こそこそと部員達に耳打ちしている佳子にぼくが声をかけると笑って誤魔化す佳子。
「まぁお楽しみって事よ」亜紀が最後の部員に耳打ちして戻るとぼくにそう言って笑った。
「それじゃあ判らないよ」二人の言葉に意味がわからず聞き返していると入り口が開いて相手校の生徒が入ってきた。

「宜しくお願いします」相手校の部長らしき人がこちらに出向いてきて挨拶をし、それに答えるようにさっきの男子が同じように頭を下げた。
「新しい体制になって初めての対抗試合ですが、力を残さずに発揮して本大会での再会を約束しましょう」部長はそう言って手を指し出し相手は頷いて手を握る。
「前回は残念ながら決勝で会う事は適いませんでしたが、今度の大会ではぜひに!」そう言って力強く手を振る。
お互いに他愛のない雑談をすると各々の控えに戻っていく。
「頼もしいな、今年の部長は」佐藤はそう言って部長に声を掛けると、照れた風に顔を破顔させてしまった。
「先輩、そう言う言い方ずるくないですか?」
「なんでだ?今の部長はお前なんだからそれを誉めて何が悪いんだ?」佐藤はシレッとして言葉を受け流すとちょっといたずら小僧的な顔に変わる。
「勝てないなぁ先輩には」そう言ってため息を付く部長に佐藤は笑って肩を叩いた。

試合は始まった。
最初の選手同士は実力的には余り変わらないらしく、あっさり一本を取る事がなく試合がなかなか進まない。
規定の時間が過ぎても決着がつかず、とうとう延長に入ってしまった。
「いい加減に決めろ!」「相手を見て焦るな」対照的な声が両方から飛び交い、選手にも焦りが溜まっていく。
「「セイヤー!!!」」互いの気合を込めた声と同時に飛び出し打ち合いに入り、乾いた音が武道館に響き渡る。
そして延長時間が切れ引き分けになっていた。
「すみませんでした、せっかく応援して貰ったのに」どういうわけだか試合の終わった人がぼくの前に来て頭を下げたのだ!
「そ、そんな事どうして?」余りに考えつかない行為にぼくは戸惑ってしまったけど、置いてあったタオルをそっと彼に差し出した。
「頑張ったんだもんね、結果として勝てなかっただけだもん」落ち込んでいる彼を元気付けたほうが良いと思って、優しく声をかけているぼくに彼はじっとしている。
「せ、先輩」彼はそう言ってタオルを持つぼくの手に自分の手をかぶせ、真剣な目でじっとぼくの事を見つめている。
「う、うふぉん!・・・まぁ五分五分だったのは仕方ない事だからゆっくり休めよ」部長は軽く咳払いをするとそう言って脇に座るように告げた。
部長の言葉に、残念そうな顔でいてどこか浮かれているような彼は手を離すと部長の言葉通り座った。

さてそんな彼ではあったが、待ち構えていた部員から手厚い”労い”が待っていた。
「お前、勝てなかったくせになんなんだあれは!?」隣の部員からはそんな言葉と共にひじ打ちが襲いかかる!
「痛てーよ、頑張ったからだろうが勘ぐるなよ」彼はそう言って和美から手渡されたタオルを頬ずりしている(笑)。
「ちくしょー!引き分けでああなのか!?じゃあ俺はなんとしてでも勝って先輩に汗を拭いてもらうぞ♪」
「ふん!お前が勝てるはずないだろう?せいぜい負けない事を祈っているよ」
「そういえば別な女の先輩がさっき何か言っていたなぁ」
「そういえば、”パスタが余っている”とか」
「そうそう、”試合に勝ったら食べて良いわ”とか言ってたなぁ」
「え?俺には”和美のスペシャルパスタがご褒美よ”って言ってたぞ?」そう言い合い腕を組んで考える部員達(笑)
「「「だけど、勝てば食えるというのは間違い無いんだな!!!」」」そう言って目が燃え上がり、これから試合に出る部員達は”絶対勝つ”と心に誓うのであった(爆)。

「いつもの事だが・・・なかなか勝てないものだな」三試合目が終わりまた引き分けになって部長はため息を付いていた。
「そうだな・・・だが練習の成果は出ているからそう心配する事でもないだろう」そう佐藤は答えると試合の為に立ちあがった選手にいくつか声をかけアドバイスしている。
「頑張ってこいよ!」肩を叩いて送り出す佐藤に選手は頷くと、なぜかぼくの方に目を向けている。
「あ、頑張ってね」なんとなくそう言ってぼくも選手に声をかけると元気に走り出していた。
・・・なんだろう?さっきからぼくの方に目を向けているんだよなぁ・・・どうしてなのか判らない和美であったから、それでも声をかけ送り出していたのだ。

「一勝一敗一分か」佐藤は帰ってきた選手を見つめ、手にしていたボードになにかを書き込みながらそう口にしていた。
「踏み込みが少し遅いな、何度かは決定打を打てていたぞ」
「すみませんです」佐藤の言葉になにやら思うところがあるらしく素直に頭を下げ控えに戻っていく。
「はぁ凄いね」控えに戻っていく選手を見ながらそう呟くぼく。
「打ちこみを毎日しているんだ、ウチの部員ならあれくらい期待されて当然だよ」と涼しい顔で呟く佐藤。
「あれ以上の事を望んじゃうの!」佐藤の言葉に驚いて聞き返すと、当然とばかりに頷いた。
そして試合はなんとか進み、10戦して4勝2敗4分け・・・圧勝ではないけど勝ちで終わった。
「勝つには勝ったが引き分けが多いから時の運としか言えないな」部長はそう部員を見渡しながら言っている。
「まぁ頑張って勝ったことには間違いないんだからさ、そう言う事もないさ」佐藤はそう言い部長をたしなめる。
「まぁ・・・そうですが・・・」
「これで自分たちのレベルも判り、本選に向けての目標もはっきりした・・・あとは努力をする事だろう?」佐藤の言葉にさすがに部長もなにも言えず、部員達と同じように頷いているのだ。
・・・貫禄の違いってこういうのだろうなぁ・・・和美はそんな佐藤を見てそう思っていた。
「じゃあ・・・掃除をして解散だ」部長の言葉に部員は頷き、そして騒ぎが起きた。

「「「ちょっとまったぁぁぁ!!!」

一部の部員が大声で叫ぶと部長の言葉を遮った!
「部長大事な事忘れてないですか?」一人がそう言って部長を見つめると他の声を出した部員も同じように見つめていた。
「大事な事?何かあったかな?」
「”何かあったかな”じゃないですよ、とても大事な事なんです!」握り拳を固め力強く言う部員に部長は気迫負けしそうになってしまった。
「そ、それで大事な事はどういう事なんだ?」
「「「そ、それはそのぉ〜〜〜」」」叫んだ部員達は恥ずかしい事なのか今一つ歯切れが悪く、なぜだかぼくの方をちらちら見ているみたいなのだ。
「言わないと判らないだろう?」部長はそう言って催促をしているけどなかなか口を開けないでいた。
「あ、斉藤さん最後までいて貰って悪いね」佐藤はそう言ってぼくに帰っても大丈夫だと告げた。
「あたし達には何も無いわけね佐藤君は」ぼくの事ばかり言う佐藤に佳子がじと目で見つめると、佐藤も苦笑いして佳子に顔を向けた。
「鈴木さんも山本さんもホントに遅くまでゴメンね、パスタ美味しかったよありがとうね」
「ちょっと間に合わせみたいだけど、佐藤君じゃ仕方ないか」亜紀はそう言って手を広げ部員に笑いが広がる。
佐藤はそっちが鈍いのは皆が良く知っている事なのだから(笑)。
「先輩にはパスタ温め直しまでして頂いて申し訳無かったです」部長はそう言ってぼくに頭を下げた。
「打ち合わせで一緒じゃなかったから温かい方が美味しいと思って、そんなに気にしなくても良いよ」部長にそう答えたぼくだったが、佳子はなぜか顔に皺を寄せていた。
「あれって、佐藤君達の分だったんだ」意味不明な佳子の言葉に聞き返すと、手を振ってなんでもないよと答えている。

「「「!!!」」」

不意に佳子がさっき部長に何かを言いかけていた部員に囲まれた!
「あはは、ゴメンあれ間違いで」何やら手を振って言い訳をしている佳子。
「賞品が出るって言うから頑張ったのに!」
「そうだ!せっかくの先輩の手料理を楽しみにしてたのに!」部員達はそう言って佳子に詰め寄っているのだ。
「だからあれは勘違いで」言い訳をしている佳子に部員が目を吊り上げ近付いていく!
「ふ〜ん、そんな事してたんだ佳子さんは」さっきの部員の様子を佳子の言葉で理解したぼくは肩にそっと手を置く。
「そうか、お前達は賞品目当てだったというのか!」部長と佐藤は詰め寄っていた部員達の肩に手を置く。
ビクリとして一瞬で固まる佳子と部員達!

「「バツとしてグランド10周!!!」」
ぼくと部長・佐藤が同時に叫ぶと佳子と部員がグランドに飛び出していった(爆)。

 

35話へ続く


はあはあはあ・・・なんとか今月中に2話アップできたぞ(ぉ)。
というわけで、インターバルほとんどなしで34話をお届けします。
(はいそこ、編集の質が落ちてるとか言わない)
えー、気を取り直して。うはは。モノにつられますか、やっぱ(ぇ)。
まあ、あれですね。人気者は辛い?(爆)
さて、次はいつになるかなぁ・・・(核爆)。

2006.08.29  mk8426

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