和美ちゃんスクールライフ
和美ちゃん20話
作:kagerou6
「ただいま」ぼくはドアを開けて中に入ると
「こんなに遅くまで・・・いったい何していたの?」そう言って姉が怒っていた。
「ちょっと、大事な事」そう言ってコタツにもぐりこみ
「やっぱり、まだ寒いや」そんな事を言いながら、かけ布団を引き上げた。
「ところでお夕飯は?」姉の奥さん(爆)がそう言いながら、オカズをお盆に載せ運んできてコタツに置いている。
「まだ・・・お昼も食べてないから・・・」
「じゃあかなりお腹空いているんでしょう?早く着替えてきなさいな」
「は〜い」ぼくは素直に答えて、コタツから這い出した(笑)
「ご馳走サマ」箸を置きながらそう言い
「姉さん、昔の在校生の住所とか判るかな?」そう聞くと、不思議な顔でぼくの事を見つめ返している。
「実はエリーの事なんだけど」
「エリーって留学生の?・・・その娘がどうかしたの?」
「うん、実はさ、お祖母さんに・・・」そう言って理由を説明して
「だから、なんとか調べたいんだ」
「在校生か」考えながら姉は独り言を言い
「もし家族が転居しても、記録しているかなぁ」
「連絡って無理なの?」
「生徒ならともかく・・・両親とかはどうかなぁ」
「まあ、そう言う事なら私も伯父さんに当たってあげる」
「アリガト姉さん」ぼくはそう言って頭を下げた。
「せっかくエリー、こんなとこまで来てお祖母さん探そうとしているんだからさ、手伝ってあげたいじゃない」
「そうだね、こんなところにまで来ているんだしね・・・」姉はそう言いコタツにもぐっていた。
翌日の日曜日、ぼくがまた手がかりを探そうとして出かける準備をしていると、姉も何やら準備をしている。
「どこかに行くの?」
「伯父さんに聞いてこようと思って」そう言いつつ化粧をしている(笑)
「学校の卒業生なら何かしらの情報持っているのじゃなくて」
「そうだね・・・伯父さんかぁ」ぼくは着替えながら姉に答え
「理事長先生とかも聞けないかなぁ」
「どうかな・・・でも聞けたのなら聞いてくるから」姉はそう約束をしてくれた。
ぼく達はエリーのお祖母さんを探すために、出来るだけ昔の事を聞き出そうと決めたからだ。
「どうもありがとうございました」佳子の家の近くに住む人を尋ね、礼を言って退出してきた。
「この人はここまでか・・・じゃあ裏のおばあさんね」佳子はそう言ってどんどん歩いていく。
「おばあさん、あたし佳子!・・・聞きたい事あるんだ」そう言って別な家のドアを開け入っていく。
学校では見られない行動力にぼくは驚いていた。
「和美・・・あたしも色々聞いてきたよ」入り口で佳子が戻るのを待っていると、亜紀が声を掛けて来た。
「何か判った?」
「ウチの隣の事でしょ?・・・向いのおばあさんが覚えていてくれてさ」
「それは大収穫かもしれないね」佳子がドアから出てきながらそう言って、持っていたノートをポンっと叩く。
「今日はこれくらいにして、集めたのを纏めましょ」そう言い、ぼく達はまた佳子の家に向かった。
佳子の家に着くと、お母さんに挨拶しながら佳子の部屋に向かう。
小さな時計の音を聞きながら、集めた記録を皆で纏めている。
佳子も亜紀も、何も言わないでじっとノートを見て手がかりになりそうなものを書き写していく。
書き写している音が流れ、小さな手がかりが纏まり形を作っていく。
「亜紀、佳子・・・もう塾の時間なんじゃあ・・」ぼくは心配になってそう聞くと、二人は何も言わないで確認を続けていた。
「ねぇ・・・お母さんと約束したんじゃあ・・・」
「いいのよ和美・・・」亜紀は手を止めると、持っていた紙をポンと叩くと
「今はエリーのお祖母さんを探すことが大事なの」
「勉強はいつでも出来るわ・・・でもね、お祖母さんに会えるのってもうないかも知れないじゃない?」佳子は持っていた紙に印をつけながら、そう言って答える。
「エリーのこと考えたら、塾に行くのってさ・・・」
「二人とも・・・ホントにいいの?」
「だってエリーは友達じゃない」二人は笑顔でエリーに答えていた。
「・・・アリガト・・・」その言葉にエリーは俯いて、そっと一言呟いていた。
「少しは休憩しなさいね」そう言って佳子の母がお茶を運んできてくれた。
「少し判った事があるの・・・それでさ・・・」そう言う佳子の肩に手を置いて
「今の頃の友達って・・・いつまでも心に残るのよ」そう言うと、自分で調べたのか1冊のノートを佳子に渡した。
「私にも判るから・・・だから頑張りなさいね」そう言ってドアを開け、部屋から出ていった。
「ありがとう・・・母さん」消えそうな声で佳子がドアに向かってささやくと、お母さんは少しだけ微笑んだ気がした。
「・・・判った事は、この町内にはもう居ないってことね・・・」佳子はエリーを見ながら、集めた事からそう言っていた。
「エリーが産まれた頃どうやら引越ししたらしい・・・」亜紀もノートを見てそう言うと、エリーも頷く。
「で、新しい住所は・・・」ぼくはノートに指を置いて
「隣町のこの住所」そう言ってノートに書かれていた字を指差した。
「まだ時間あるわ、これから行ってみましょう」佳子の提案に皆が頷いた。
「地図だとこの辺りなんだけど・・・」ぼく達は地図を追いかけながら、調べた住所を確認している。
「この神社ってあれの事じゃないの?」ぼくは廻りを見ながら地図に指を置いてそう言うと
「そうすると・・この道がこれであとは・・・」佳子も地図に指を置き
「ということは、その角がこの住所だな」亜紀はそう言うと、エリーの手を握ってまっすぐに歩いていた。
「この家ね」ぼく達はもう一度地図を確認して、玄関に備えつけてあったインターホンを押した。
「どこに行ったのかな」公園に座りながら地図を見つめて佳子がそう言っている。
結局あの家には若い人が住んでいるだけで、手がかりが途切れてしまっていたのだ。
「ここの近所では、あそこの家の事は誰も知らないようだったし」
「ここまで来たんだけどなぁ」
皆もうどうして良いのか判らなくなっていた。
「でも・・・引越ししたの最近、元気だったショウコね!」エリーはそう言って立ちあがると
「ナニモ判らないじゃない、グランマ元気だってこと判ったよ」エリーはそう言いながら、佳子の手を握っていた。
「エリーが帰国する前に何とか合わせてあげたいね」その様子に亜紀がそう言い、ぼくも頷いて答えた。
「亜紀の近所、もう一度聞いてみようよ」佳子は二人を見つめそう言っていた。
「もしかしたら”親しい人”がいるかもしれないじゃない?」
「そうだよ、きっといると思うよ」ぼくがそういうと亜紀も頷く。
「探そう、きっと判るから」
佳子は亜紀とエリーの手を握ると、二人に笑いかけていた。
「手掛かりなしか」
何軒かを廻り、昔の話を聞いてみたけど誰も知っている人はいなかった。
「この辺りってかなり入れ替わっていたのね」亜紀は申し訳なさそうに呟いてエリーを見ていた。
「あたしが知っていたら・・・」
「イイの、亜紀・・・」エリーは落ちこんで見える亜紀にそっと話しかけ
「アタシと合う前、なにも判らないデス」
「でもさエリー・・・あたしだって何度かお話していたかと思うとさ」亜紀は悔しそうに呟くのを見てエリーは首を振る。
「大人の人、なかなか判らない・・・これは子供一緒」
「エリー・・・」亜紀はエリーの言う言葉の意味が判って、なにも言えなくなっていたのだ。
「和美さん・・・こんな所でどうかしたの?」自販機の前で考え込んでいたぼく達は、突然を声を掛けられた。
「お姉ちゃん・・・どうかしたの?」幼稚園の子供のような小さな声も、同じように心配そうに聞いてきている。
顔を向けると佐藤のお義姉さんが奈美ちゃんを連れて微笑んでいた。
「あ・・・こんにちは・・・」
「どうしたの?・・・美人が台無しよ♪」そう言って笑いながら廻りに目を向けると
「雅彦さんいないのね・・・ケンカでもしたのかな♪」そう言ってぼくの事をじっと見ている。
お義姉さんの言い様に、一緒にいた佳子も亜紀も驚いている。
「和美・・・やっぱり佐藤君と・・・」
「違うって!」ぼくは二人の言葉に力一杯否定した。
「そういう訳だったんだ」お義姉さんは近くの喫茶店にぼく達を連れて入り、エリーの事を聞いて頷いていた。
「えぇ、エリーはもう少しで母国に帰ってしまうから・・・」佳子がそう言ってエリーを見つめている。
「エリーの為に皆で探してたの・・・でももうどうして良いのか・・・」赤い目で亜紀は話し、お義姉さんをじっと見ている。
「・・・そう・・・」話を聞いてお義姉さんはエリーに目を向けた。
エリーは一旦目を合わせて頷き、なにも言わないで静かに首を振った。
それはもう誰にも迷惑を掛けたくはないという彼女のメッセージであった。
「・・・さすがに和美さんの友達ね・・・」静かに微笑みながら呟くと、お義姉さんはもう一度全員を見渡していた。
「ちょっと・・・それいいかな?」お義姉さんはそう言ってエリーの着けていたペンダントを指差していた。
「あ、はい・・・」ペンダントを外しそっと手渡すエリー。
「なんだか、いつも手にしているようだけど・・・これはもしかして?」貝を裏返しながらそう聞いている。
「えぇ、ママが家から持ってきたものです」
「でしょうね・・・ちょっと汚れ・・・・」貝を見ながら話していたお義姉さんは、何かに気付いたのか話を止めていた。
「え?・・・どうかしました?」
「うーん・・・もしかしたらこれって・・・」そう言うとバックから携帯を取りだしどこかに電話を始めていた。
「あ、佐藤です・・・7解析空いてるかな?」
誰もが話している内容が気になりずっとお義姉さんを見つめていた。
「そう・・・じゃあ光学測定器とマイクロも暖めておいてね」そう言うと携帯を閉じてしまった。
「あの・・・今のっていったい?」
「あ、今の?・・・ちょっと会社の機械使おうと思って♪」
「「「え!」」」さすがに全員が驚いて、お義姉さんを見つめてしまった!
「そんな・・・ごめいわく・・・」エリーは片言の言葉を言い、さすがに止めてもらおうとしていた。
「良いのよ・・・空いている機械なんだし・・・」そう言ってエリーを見て、それからぼく達の事を見ながら
「貴女達見ていたら私も手伝いたくなった・・・それだけよ♪」そう言って微笑んでいた。
会社に着くと受付でお義姉さんはカードを取りだし、小さな部屋の側にあるリーダーにかけ中に入っていった。
「ここの部屋から出ないでね・・・許可貰ったのはこの部屋だけだから」そう言うともう一度エリーからペンダントを受け取り、置いてあった機械に置いた。
いくつかボタンを操作すると、ペンダントは機械の中にゆっくり入っていく。
所定の場所なのか動いていたペンダントは止まり、上からカメラのようなものが降りてきた。
それはペンダントに眩い光の筋を当て、ゆっくりと動いている。
・・・あれはもしかして・・・ぼくは以前TVで見た番組を思い出し、お義姉さんのやろうとしている事がやっと判った。
お義姉さんは機械を使って”見えなくなってしまったもの!”を見ようとしているのだ。
・・・そういう訳でここに連れてきたんだね・・・ぼくがお義姉さんを見ると言いたい事が判ったのか頷いていた。
それが端まで動き終わると、ペンダントはまた動き出し反対側から出てきた。
いくつかキーボードを操作し目的のデータを確認すると、壁際にある棚からいくつかのビンを取りだし見つめている。
「それって?」佳子は興味を持ったのかお義姉さんに聞くと
「チョットした・・・劇薬かな♪」そう言い微笑む。
「「「じょ冗談ですよね・・・」」」
「さぁ♪」お義姉さんはそう言いながらペンダントを別な機械に載せると、ビンの中の液体を数滴かけ、何かを観察している。
「ふーん・・・元のペンダントってこんなだったのね」そう呟き、顕微鏡のようなものを近付けた。
「何かわかったんですか?」
「このペンダント・・・なにか書いてあったらしいわ・・・」そう言いながら脇に置いてあるパソコンの画面にデータを映し始めた。
「顔料とか染料とかに反応する試薬をちょっとつかわさせて貰ったけど・・・余り強いもの使ってないから影響無いわ・・・」
「何が書いてあったのですか?」ペンダントを見つめながらエリーは呟いていた。
「えぇ、貝の組織に入りこんでいた所を強調するわね」お義姉さんはそう言ってモニターの映像を変えていく。
モニターの貝の表面には段々と影が浮かんでくる。
「この辺りかな?」お義姉さんはそう言って手を止めると、モニターには三本の筋が映っていた。
「これが・・・そうなの?」浮かんだ影に佳子はじっと見つめている。
「なんだか判らないけど・・・絵なのかな?」同じように見つめていた亜紀もそう言って頭を傾げている。
「ワタシ・・・はじめて見る、わからない絵ね」エリーも書いてある字には何も判らなかった。
「そうね・・・絵っていうより水墨画みたいな感じだよね・・・」お義姉さんもそう言ってモニターを見ていた。
・・・あれってどこかで見たような・・・ぼくは会社から帰りながらそんな事をずっと考えていた。
「和美・・・どうかしたの?・・・さっきからおかしいよ?」
「うん・・・ちょっときになって・・・」
・・・あの形どこかで見たんだよなぁ・・・
「まぁ・・・手掛かり出来たし、これで判るかもしれないわ」
「そうだね・・・学校であれと同じもの調べればなんとかなるんじゃあ?」佳子はそう言ってエリーに笑っていた。
「そうよ・・・貝に書いてあるんだもの、辞典とかで判るわ」
「そ、そだね・・・佐藤君のお義姉さんにも手伝って貰ったんだもの」
「そうよ・・・今までに手伝ってくれた人の為にもね」
「アリガト・・・みんな・・・」俯きがちにエリーは呟くとそのまま駅に向かって歩いていた。
「じゃあ、図書室で探してみよう」翌日、授業が終わってぼくは皆にそう話しかけた。
「昨日のやつは義姉さんから預かってきているから、これを見れば直ぐに確認できるね」佐藤もそう言って、貝を拡大補正した写真を出して言う。
「うん・・・皆で掛かればすぐ判るわ」佳子はそう言って真っ先に図書室に向かっている。
「慌てても仕方ないんだがなぁ?」佐藤はそう言って佳子の事を見ている。
「そうだよ・・・急いだって図書室は無く・・・」佳子を目で追いかけていくと、理事長が談話室の前にいるのに気がついた。
「あれ・・・理事長じゃない?」一緒に歩いてる佐藤にそう話しかけると
「そうだね・・・理事長がどうして談話室なんか?」気になって見ていると中から姉が出てきて、理事長に挨拶している。
「あれ?・・・なんで姉さんが?」
「晶先生と理事長・・・何かあるのかな?」佐藤も不思議そうに二人を見ていた。
「もう、何してんのよ?・・・今日中に見つけるんだかんね!」佳子はぼく達が遅いので戻ってきてそんな事を言っている。
「直ぐに行くから」ぼくはそう言い、佳子と一緒に図書室に入っていった。
「昨日義姉さんが持ってきたくれたやつだ・・・これを頼りに絵を確認していけば良いんじゃないかな?」佐藤はそう言って持ってきた写真を人数分コピーしていた。
「そうね・・・あたしは写真とかで同じようなの探してみるね」佳子はそう言ってコピーを取るともう本棚の側に行っている。
「じゃあ・・・あたしは掛け軸とかそんなのを探してみるわ」亜紀はそう言うと佳子とは違う棚に行ってしまう。
「じゃあ・・・僕は古典とか歴史の方から探してみるよ」佐藤はそう言うと本棚に向かった。
「じゃあ・・・水墨画とかはぼくが見るから」そう言って佐藤の隣の棚に行った。
「古典だと・・・なさそうかなぁ」佐藤は本を見ながらそう言っている。
「あの感じだと、やっぱり水墨画とかを探した方が良いんじゃないのかな?」
「そうだね・・・それじゃぼくはこっち見るからさ、斉藤さんはそっち見てくれる?」
「うん・・・・なにかそれらしいもの見つかったら言うから・・・」佐藤にそう言って、ぼくは後側にある本棚を中心に探す事にした。
「これなんかそうじゃないかな?」ぼくは昔の水墨画の本をいくつか持って佐藤に声を掛けた。
「こっちにも色々あったよ」佐藤もそう言って厚い本を持っている。
「これだけ調べれば手掛かりは判るよ」佐藤はそう言うと他にも探していたのか同じくらい厚い本を4,5冊を棚から取っていた。
「そうすると・・・佳子達にも手伝ってもらったのが良いかな?」
「どうかな?・・・鈴木さんの方でも何かを見つけているんだろう?・・・邪魔にならないかな?」
「そうかな・・・佳子ってこういうの判るとは思えないし」ぼくは本に目を落としながらそう言うと佐藤は笑っていた。
「きっと何かを見つけているって♪」佐藤はそう言うと机の方に歩いていた。
だけどそこには、お義姉さんの手掛かりから何をして良いのか判らない佳子達がじっとぼくらを見ていた(笑)
ぼく達は唖然としながら本を置いた。
いくつかの画をプリントアウトしたペンダントのものと合わせていく。
同じようなものがあったら本からコピーして、佐藤のお義姉さんに照合して貰うつもりだったのだ。
ぼくと佐藤が本をめくり中を確認して、見つかったものを佳子と亜紀がコピーをしに行っていた。
似たようなものが本からいくつか見つかり、本を元の所に戻し新しいのを持ってくる。
そんな事が閉室時間まで続いていた。
でも、コピーしたものを確認すると同じ物が多く、別なものといえるのは四枚だけだった。
「ふぅ・・・終りまでいて四枚か」佐藤はそう言いながら取り出した本を纏めていた。
「でもさ、四つだけでも手掛かりできたんだもん・・・それだけでも十分じゃない?」と佳子が佐藤に言っている。
「そうだね・・・あとは義姉さんしだいか」
「じゃあ余り遅くなるのも拙いから、駅までは送っていくよ」佐藤は時計を見ながらそう言って、司書の先生に頭を下げながら出て行く。
ぼく達も佐藤を見習って頭を下げて一緒に出てきた。
「あ、和美良いとこに♪」姉はそう言って図書室から出てきたぼくの腕を握って引っ張る。
「なんだよ姉さん?」ちょっと抵抗しながら言い返すぼくに
「お願い・・・ちょっと手伝って・・・」そう言いながら科学準備室に引っ張っていく。
「和美・・・あたし達帰るからね」佳子達は、ぼくが姉に捕まった事に一緒に帰るだろうと判断したのかそう言って玄関に歩いて行ってしまった。
「なんだよ・・・ぼくだってやりたい事あるんだよ?」姉にぶつくさ文句を言うと
「ゴメン・・・これが出来なくて手伝って欲しいのよ」と、机の上に並べてあるのもを指差していた。
「なにこれ?」
「貝よ」姉はそう言って机に置いてあった貝を手にした。
「私が顧問をしている茶道部の卒業生に配ろうと思ってね・・・字を入れていたの」
「色紙とかでも良かったんじゃないの?」ぼくは貝を受け取りながらそう言うと姉は笑って
「バカねぇ・・・これって昔からある”貝合わせ”を真似てるのよ、色紙なんかじゃ茶道部らしくはないでしょ?」
「貝合わせ・・・それって昔の?」
「そうよ、古典とかで習ったでしょう?・・・貴族の遊びなのよ」姉はそう言って笑う。
「茶道部だから、貴族の遊びだから・・・貝合わせって単純過ぎない?」
「なにいってんの・・・ずっと昔からやっているんだからね」姉はそう言うと、書き終えた貝をぼくの目の前に差し出した。
「世界に一つしかない思い出なの・・・そうは思わない?」
「うーん、そうかなぁ」ぼくは姉に答えながら貝を見ると、書いてある文字に目が奪われてしまった。
・・・これって、あのやつと同じ?・・・
さっきまで見ていた貝の図柄が目に浮かび、姉の書いたものと比較してしまうぼく。
「あれ?・・・変な事書いてあった?」姉は見つめているぼくにそう言っている。
「そうじゃなくて・・・これって簡単に出来るものなの?」
「どうかな?・・・私もあんたも書道慣れているから良いけど、普通の人じゃ無理じゃないかな?」
「書道とかやった事無いと・・・字とか雰囲気出ないもんね」姉はそう言って笑っていた。
「・・・雰囲気ねぇ・・・」
「そうよ、これを持っていれば・・・茶道部で過ごしたんだって思い出せるじゃない・・・昔からやっているんだって理事長も言っていたわ」
「そう・・・昔から・・・」ぼくは貝を見ながらそう答えた。
「理事長も昔はここの顧問だって言っていたわよ・・・だからね、私もやり方教わってやっているんだけど疲れちゃって」姉はそう言ってぼくの事をじっと見ている。
「理事長が顧問?・・・すると・・・」ぼくは姉の話に考え始めていた。
・・・エリーのお母さんはここの卒業生、それであの貝を持っているのだとしたら・・・
・・・あれ?でも確か佳子のお母さんいつも大事に持っていたって?・・・
・・・すると部のOGとかじゃなくても、持っていたっていう事?・・・
・・・だとすると誰かに貰ったか、買った?・・・
・・・でもあれって売っているような感じじゃなかった、手作りとかそんな感じで・・・
・・・もしかしたら作った人が同じって事なのかな?・・・
「姉さん・・・昔の名簿とかあるかな?」
「部員の?・・・どうかな、あると思うけど?」姉は奥の棚の前に行くと暫く考えて厚い本を取り出し広げた。
「ここに書いてあるのが・・・過去の部員と顧問だと思うけど・・・」姉はそう言ってページを捲っている。
毎年々々、卒業生だろうか大人びた感じの学生と顧問の先生が写った写真が中から出てきた。
下には顧問の先生が書いたのだろう、筆で名前が書きこんである。
その隣には皆の寄せ書きなのか、一人ずつ抱負が書きこまれていた。
・・・もしかしたら顧問の先生を訪ねてみれば判るかも・・・そんな思いで一枚ずつ捲っていった。
「あれ?」ぼくは名簿を見ていてどこかで見たような感じがしていた。
さっきまでの字の時にはそんな感じはなかったのだが、このページではそんな感じがしてならなかった。
「どうかしたの?」ぼくの様子に姉も気になったのか、一緒にページを見ている。
「この字・・・どこかで見たような気がするんだ・・・さっきはそんな気はしなかったんだけど・・・」
「そう?」姉はそう言ってそれをまえのページと見比べている。
「顧問の先生が違うんじゃないかな?・・・さっきまでとは字体が違うから」
「そう・・・でも、最近見たような気がするんだけどね」
「ふーん・・・あれ、これって理事長先生じゃないかな?」姉はそう言って写真を見つめている。
「え?」ぼくも姉と一緒に写真に目を向けた。
穏やかな笑顔で写っている感じは、この間の理事長の感じと同じような気がする。
「若い頃の理事長って・・・結構キレイだったんだね」
「そうね・・・生徒も笑顔だし、仲良かったんじゃないかな」
「そうみたいだね」ぼくはそう言いながら写真を見ていた。
・・・あれ、この感じもどこかで・・・写真を見ながらなんとなく前に見たような感じがしてならなかった。
「鈴木エツ・・・間違いないわね理事長に・・・」姉はそう言った。
「理事長って”エツ”っていうの?」
「そうよ?・・・やだ、知らなかったの?」姉がそう言った時ぼくの携帯が鳴っていた。
「斉藤ですが・・・」
「佐藤ですが・・・和美さん?」相手はそう言ってぼくの事を言っていた。
「あ、そうですけど・・・佐藤さんですか?」
「あ、ごめんなさい・・・雅彦の義姉の静香です」相手はそう言って自分のことを告げた。
「あ、昨日はありがとうございました」ぼくはそう言って用件を聞こうとしたら
「昨日のことなんだけど、あれが本当じゃ無かったの」お義姉さんも興奮しているらしく、いきなり話し出していた。
「あの、それっていったい?」
「昨日のデータを分析していたら・・・絵の所に違う反応が出てきたの!」
「え?・・・それってどんな・・・」
「あれは”2つのもの”が重なってああなっていたの・・・一つずつは全然違うものだったのよ!」
「そうなんですか!」
「えぇ・・・でね、これを見ると・・・墨とマジックで書いてあるの・・・」
「墨とマジック・・・」
「そう・・・別々なもので書いているの・・・」
「それって最初に書いた人とは違うってことなの?」
「たぶんね・・・明日雅彦さんに渡しておくから・・・」
「ありがとうございました」ぼくはそう言って携帯を切り仕舞った。
「和美何か判ったの?」姉は携帯を切ったぼくに話しかけてきた。
「うん・・・貝のことなんだけど、意外な事が判ったって・・・」
「そう・・・そうなの・・・」姉は少し寂しそうにそう呟いた。
「え?・・・エリーのお祖母さんが見つかるかも知れないのに、姉さんそんな顔をするわけ?」
「会わないから、その人を嫌っているとは限らないの・・・会わない事がもっとも深い愛情だっていう事もあるのよ」
「そんなのわかんないよ!・・・エリーは会える事を考えて寂しい事にずっと我慢していたんだよ?」
「姉さん・・・もしかして知っているんでしょ、エリーのお祖母さん・・・」
ぼくの言っている事に姉は何も言わないでいた。
「これ義姉さんから」翌日、佐藤はそう言って新しい写真を持ってきた。
「ありがとう」ぼくは写真を受けとって、佳子達に気付かれ無いように出し確認した。
写真は2枚入っていて、流れるような文章がはっきり浮かんでいた。
その字は絵と間違うような事は無くすんなり読めて、ぼくは佐藤のお義姉さんにただ驚くだけだった。
・・・一つはエリーのお母さん、もう一つが・・・文の最後にははっきりと名前まで書きこんであり、誰がお祖母さんなのか間違いなく教えてくれていた。
「そう・・・だったんだね・・・」ぼくは写真を見ながら呟いていた。
「ねえ、佐藤君・・・」写真を見つめたままぼくは佐藤に話しかけた。
「なに?」
「あのさ・・・昨日ね・・・」ぼくは姉の言ってた事が気になっていて、誰かに相談しようと思っていた。
佳子とか亜紀とかじゃ、姉の考えている事なんて理解できないと思っていたので、冷静に判断できるのは佐藤を待っていたのだ。
・・・でも、話して良いのかなぁ?・・・話しかけたけど、実際に相談して良いのかまだ迷っているのも事実だ。
あの後考えてみると、自分の中でも姉が言っている事が理解できないわけではなかった。
長い年月で、大切な相手に迷惑が掛かる事件が無いとは言えないから!
だけど、会いたがっているエリーの事を考えると、とても口を閉じている事が正しいとは思えない!
ぼくは写真を受け取ったままため息をついていた。
「斉藤さん・・・人ってどうして矛盾するんだろうね」佐藤はそんな事を言い始めていた。
「え?」
「大事な事を守る為に、辛い想いをする事もあるじゃない?」
・・・まさか佐藤は?・・・矛盾している事を言い始めた佐藤を見つめると静かに頷いた。
・・・佐藤は気付いたんだ、あの写真の事を・・・ぼくはそう思って見つめる。
「気になっていたんだ・・・あの時から・・・・」
「あの時?」
「うん、最初に会った時からね」
「そうなんだ」ぼくは佐藤の言葉に、彼自身も迷っている事に気付いた。
佐藤ほど交流が広ければ、普通でない状況の理由など隠せるはずではないから。
「たぶん・・・君の伯父さんがあの人呼んだんじゃないかな」
「伯父さんが?・・・どうして?」
「良く考えるとね、おかしいからね・・・あの人の経歴とか赴任時期が・・・」佐藤はそう教えてくれた。
佐藤はまるで別なアプローチで探していてくれたのだ。
最終的に判断したのは、このエリーのペンダントの写真だったのだろう。
だけど、姉と同じような事を考えていて黙っていたのだ。
「伯父さんの所に行ってくるから・・・佳子達誤魔化しておいて・・・」ぼくはそう言って教室から抜け出した。
「伯父さん・・・どう・・・」ぼくは校長室のドアを開け、中にいる伯父さんに話しかけて言葉を詰まらせた。
姉と問題の人物がぼくの事を見かえしていたからだ。
三人はぼくが部屋に入っても驚いた素振りは無く、静かにぼくの事を見つめたままだった。
姉から昨日の事を聞いていたのだろうか、伯父さんはぼくに座るように言い部屋のドアを閉めた。
ぼくは座らないで彼女を見つめると、いつもの穏やかな目でじっと見つめ返してくる。
だけど彼女の目は穏やかなのではなく、ずっと我慢していた悲しく寂しい目だったと気付いてしまった。
そんな彼女を見ていると、彼女の気持ちが伝わってきてぼくは何も言えなくなってしまった。
「エリーの”お母さん”からです」ぼくはそう言って持っていた写真を手渡した。
「え?」写真を受け取りながら驚いている彼女にぼくは静かに話しかけた。
「エリーと・・・お母さんの気持ち、判ってあげてください」ぼくはやっとそう言い、彼女が写真を見るのを確認しないで校長室を後にした。
ただ、ドアを閉めるその時にかすかにすすり泣く声がぼくの耳には伝わっていた。
「エリー・・・元気でね」ぼく達はクラスメイト全員でエリーの帰国の日、空港まで見送りに行っていた。
「元気でね」手を握って最後の挨拶をしているエリー。
「エリーさん・・・卒業まで一緒にいたかったと皆が言っていて・・・」佐藤はそう言って紙袋から布を取り出して田中と一緒に広げた。
「皆で刺繍して作ったんだよ」そう言って亜紀が説明している。
「俺達はそんな事出来なかったから寄せ書きでゴメン」と高木。
「たいした記念じゃ無いけどね」佳子と志乃はそう言いながら布を畳むと袋に入れてエリーに手渡した。
「皆アリガト」エリーはその袋を抱きしめる様にして呟いていた。
「「「エリー」」」数人の女子はエリーのそんな態度に我慢しきれなくなったのか、彼女に抱き付いて泣いてしまっている。
「・・・ミン・ナ・・・」彼女達の気持ちが伝わったのか、エリーもいつのまにか涙ぐんでいる。
そんな彼女をぼくは見つめる事が出来なかった。
あの後、ぼくと佐藤が写真の事を黙っていたのであれ以上の進展は無く、エリーはお祖母さんを見つけられないで帰国する日が来てしまった。
沈んでいるエリーに、ぼくと佐藤はエリーの気持ちを無視してしまった気がして、あの日以来まともに彼女の顔を見られなくなってしまった。
エリーを見るたびに何度も本当の事を言いかけたけど、”彼女”のあの目を思い出すと何も言えなくなっていたためだ。
ぼくはもやもやしたままで、エリーを見送るしか出来なかった。
「和美・・・いままでサンキューね」
「え?」不意にエリーに言われどう答えて良いのか判らなくなってしまったぼく。
「グランマには会えなかったけど、この国に来てあたしは・・・ホント良かったよ」
「・・・エリー・・・」
「あんなに心配してくれて、ずと一緒に探してくれていて・・・」
「あのきもちだけ・・・頑張れる・・・」エリーはそう言って涙に溢れていた目で微笑んでいた。
「エリー・・・ぼくはね・・・」
「アリガト・・・マイフレンド・・・」エリーはそう言ってぼくを抱きしめていた。
「エリーこれ」姉は落ちついた頃エリーに小さな箱を差し出した。
「なんですか?」
「理事長が貴女にって・・・」箱を開け姉は中に入っているものをエリーに見せた。
「これって?」驚いているエリーの脇からぼくは箱を覗き込んで見ると、絵を描き込んだ貝が入っていた。
「どうして?」
「日本では貝合わせっていうのがあるの・・・蛤を使うものなんだけどね・・・」姉はそう言って同じものを取り出す。
「これは同じ貝じゃないと合わない物なの・・・だから、間違いなく”ここ”にいた記念になると理事長がね・・・」そう言って姉は説明していた。
「そうなんだ」エリーも贈ってくれた相手が理事長と聞いて嬉しそうな笑顔を見せている。
「和美・・・これ読んでやって・・・」姉はそう言って貝をぼくに差出し微笑んだ。
瀬をはやみ 岩にせかるる 瀧川の われても末に あはむとぞ思ふ
「姉さん・・・これって?」驚いているぼくに姉は頷くと
「エリーさん・・・貴女の望みがきっと叶うわ」そう言ってエリーの手を握っていた。
エリーが帰国して数ヶ月後、ぼくの所にはお祖母さんと一緒に笑っているエリーの写真が届いていた。
21話に続く
どうも、mk8426です。「和美ちゃん」をお届けします。危うく忘れると(ry)。
エリーちゃんは帰国してしまいました。とある事情から在日中はお祖母さんに会うことはできなかったものの、帰国後に会うことができて良かったですよね。
さて、次回はどのようなお話になるんでしょう・・・?
2004.07.29 mk8426