春奈のリターンマッチ:第6章
作: しろいるか
あれからさらに6年の月日が流れていった。 春奈は裕輔が亡くなった翌年2月に女の子を出産した。
裕輔の裕を取って裕美と名付けた。 色々な事に出会い様々な人々に助けられた。
春奈は仕事が忙しくて裕美に寂しい想いをさせた事もあった。
この6年自分の楽しみを忘れて時間が取れると愛娘と過ごして一途にすべての愛情を注いだ。
しかし看護婦は辞めなかった。 春奈は自分を事故から救ってくれた病院には感謝している。
だから事故や病気で苦しむ人々の手助けになりたいと思っている。 そしてこれは信念なのだ。
そんな想いを胸に秘めて幼い子を育てている春奈を先輩や同僚の看護婦が支えてくれた。
勤務時間も出来るだけ夜勤を無くして昼間の勤務に変えてくれて、
裕美が熱を出して休まないといけない時はランダムに勤務を差し替えてくれた。
「ありがとう!貴女達のおかげよ。 私は一生その事を忘れないわ。」
仕事中はその感謝の気持ちを忘れずに人の嫌がる仕事も進んでやった。
半年前に婦長から主任になるように内示を受けた時も、仕事が増えて大変なのは判っていたが今まで支えて
くれた看護婦のために今度は自分が主任になって助けようと思い、引き受けた。
裕美も順調に育って今ではめったに風邪も引かない健康な子供に成長していった。
春奈は夜勤明けに引継ぎのために婦長室をノックする。
「失礼しま〜す。」
「どうぞ〜。」 婦長に日報を渡して指示を仰ぐ。
「ご苦労でした。 春奈さんすこし話していかない?。」
「いいのですか?お忙しいんじゃないですか?。」
「いいのよ。 でも、あなたも以前のように明るくなったわね。」
「ありがとうございます。 すべては婦長さんと看護婦の皆さんのおかげです。」
「でもね、私はあなたに少しだけ不満があるのよ。」
「なんでしょうか?指摘して頂ければ直します。」
「仕事の事じゃ〜ないの。 気分を悪くしないで聞いてね。 あなたは何でも自分でこなそうとしているわね。
少しは人に頼ってあなたの事を思っている人たちの援助を受けたらどうかしら。
春奈さんあなたは幸せな人生を送っているの?。」 婦長さんの意外な言葉に戸惑いを感じた。
「えぇ、裕美といる事が私の幸せです。」
「私が言ってるのはあなた自身のことよ。 自分が幸せと感じなければ裕美ちゃんも幸せにはなれないわ。」
「どう言うことでしょうか?。」
「まだわからないの?。 私は高校生の時の純真無垢だった頃のあなたが好きだったの。
あの頃のあなたは甘えたい時に甘えて笑いたい時に笑っていた。
今のあなたは自分の気持ちを押し殺して無理をしているわ。
そんなことでは幸せにしようとしている裕美ちゃんも傷つくことになるのよ。 幼い子の感性は鋭いわよ。
裕美ちゃんを人の顔色を見るような子に育てたくないでしょう?。
私はあの看護婦になりたての頃の幸せに包まれていた春奈さんをもう一度見てみたいわ。」
「わかりました。 もう一度自分の幸せについても考えてみます。 ありがとうございました。」
「判ればいいのよ。 裕美ちゃんが待っているから早く帰ってあげなさいね。」
「では、失礼します。」
春奈はマンションに帰って婦長さんに言われた事を考えてみたがすぐには結論は出なかった。
仕事に追われ子育てに追われて瞬く間に半月が過ぎて行った。
また休みになったが今日は暇を持て余していた。 裕美が騒がしく遊んでいる。
「裕美、ママすこし考え事をするから少し静かにしてね。」
気持ちを落ち着かせてもう一度婦長さんの言った言葉を思い出して見た。
「私って幸せでないのかなぁ?。 幸せっていったい何だろう?。」
自分では裕美さえいてくれたら幸せだと思っていたがそれだけではダメなのかな?。
婦長さんの言葉のように自分自身の幸せを見つけないといけないのかと悩んだ。
もう一度過去を遡って様々な出来事を思い出して見る。
事故で由紀夫から春奈になった高校時代。 何も悩まないで輝いていた人生最高の時期。
看護学校の時代。 新しい知識を習得しようとして頑張っていた。
載帽式の時のナイチンゲール憲章を思い出す。 希望に胸を膨らませて心は幸せで満たされていた。
そして大学病院では失敗を繰り返して先輩達に怒られながらも技量を高めていった。
怒られても持ち前の明るくさと元気さで気分はめげる事はなかった。
裕輔との出会い、恋、そして結婚。 明るい家庭を築こうと努力して笑いは絶えなかった。
事故で裕輔が死んでその心の歯車が狂ってきた。
裕美を産んでも裕美の幸せだけを考えていた。 自分の幸せなんて考えた事が無かった。
そして一つの結論を導き出した。
「私の心が幸せでないのに裕美に幸せを与える事は出来ない。 心の中を幸せで満たそう。
そうすれば裕美に本当の幸せを与えられる。」
偽りの幸せごっこでなく本当の幸せを得なければいけない。 心にかかっていた霞が晴れて行くように感じた。
「裕美、御免ね。 これからは本当の幸せを掴もうね。」 そう思って愛娘の裕美を抱いた。
それからの春奈は気持ちをすべて前向きに換えていった。
病院でも明るく振舞って患者には爽やかな笑顔で接して仕事にも張りが出た。
今までのような義務感でなく本当に体の不自由な人々の気持ちになってお世話をした。
自分が心に負った傷が癒されたように体に負った傷を癒して欲しいと願った。
そして特に心に傷を負って自閉症になった少女にはその痛みがわかるだけに親身に相談に乗った。
そんな春奈の心の変化を婦長は自分の事のように喜んでくれた。
「春奈さん、ずいぶんと雰囲気が変わったようね。」
「はい、婦長さんのおかげです。 気持ちを切り替えて自分の事も前向きに考えて行きたいと思ってます。」
「それはよかったわ。 幸せは自分から掴まないと逃げて行くのよ。 もう一度幸せになるのよ、いいわね。」
「でも、婦長さんはなぜ私の事をそんなにも気に掛けてくださるんですか?。」
「それはね、私もあなたと同じ経験をしているからなの。 事故で夫を亡くしてその後に子供を産んだの。
そして、自分1人で育てて見せると思ったけど、結局私の不注意からその子を死なせてしまったのよ。
悲しくて自殺を試みたけど死に切れなかった。 だからあなたにはそんな想いをして欲しくないの。」
「そうだったんですか?ありがとうございます。 婦長さんに比べると私はまだ幸せですね。」
「裕美ちゃんのためにも幸せになるのよ。」
春奈は今までより以上に婦長に尊敬と親しみの気持ちを持った。
婦長は夫と子供を亡くして春奈より深い悲しみを背負っているのに明るく看護婦達を指導している。
「私も見習わないといけないな。」 と思いながら仕事に戻って行った。
それから2ヵ月ぐらい経った非番の日に玄関のチャイムが鳴るので出てみると妹の夏海が立っていた。
「お姉さん、久しぶりね。」 ニッコリと笑いかけてきた。
「夏海!!よく来てくれたわね。 さぁ〜上がって!。」 久しぶりの妹の姿に驚いている。
「ちょっと近くまで来たから寄って見たのよ。 でも、元気そうなんで安心したわ。」
上がってソファーで裕美と戯れた。 叔母として姪との再会を喜んだ。
「裕美ちゃん、可愛くなったね。」 裕美の頬を突付いて見る。
「おばちゃん、やめてぇ!。 くすぐったいよぉ〜。」
春奈は意固地になって居た為に疎遠になった妹との再会を心から喜んだ。
「ありがとう!よく来てくれたわね。」
実は夏海は大学を出て司法研修を経て弁護士になり、
仕事で知り合った同じ弁護士の信之と愛を育んで三年前に結婚していた。
今、2人は父の事務所で特許訴訟の拠点になっている新宿別室を任されている。
春奈は意地になって実家との関係を絶っていた為にその結婚式には出席していなかった。
今ではその事が心の中に重く圧し掛かっている。
「前は仲のいい姉妹だったのに悪い事をしたなぁ。 お父さんとお母さんも元気でいるのかなぁ?。」
そんな想いが胸の内に湧き上がって来た。
「夏海、紅茶しかないわ。 それでもいい?。」
「えぇ、いただくわ。 久しぶりにお姉さんの入れた紅茶を飲んでみようかなぁ。」
春奈はポットを温めて沸きたての熱湯を注いだ。 中にはあの紅茶喫茶のマスターに貰ったダージリンを入れた。
マスターは1人になった春奈を気にして何かと面倒を見てくれる。 昨日も紅茶とミルクを持って来てくれた。
昔から何かと馬のあったマスターには無条件で甘えられた。
ジャンピングして蒸らしてカップに注いだ。 そして少量のブランデーを入れてそのフレーパーを楽しむ。
「はい、今日はブランデーティにして見たわ。」
「相変わらずおいしいわね。」
「そうでしょう!私の紅茶はマスター直伝だからね。」 これだけはみんなに自慢出来る自分の誇りだと思ってる。
「そうね、あのマスターは何かとお姉さんを可愛がっていたからね。 紅茶の入れ方を習ったのってお姉さんだけよ。
こだわりの頑固者だもん。」
「そうかも知れないね。」 久しぶりに2人でお喋りを楽しんだ。 気持ちが学生時代に戻って行く。
「お姉さんも以前のように明るく元気になったのね。」
「一時はものすごく落ち込んだのよ。 裕輔の居ない生活なんて考えられなくって一緒に死にたいと願ったわ。
裕美を身ごもってこの子は神様が裕輔の代わりに私に与えてくださった。 元気にならないといけないと思ったの。
でも、1人で赤ちゃんを育てるのって大変だったわ。」
「大変だったでしょうね。 お父さんもずいぶんお姉さんの事を心配してたわよ。
でも、肩肘を張って強がっていたから取り付く島がなかったわ。 私に少しは頼ってくれてもよかったんじゃないの。」
「お父さんには悪い事をしたなって思っているのよ。 私が野村の家に残れたのもお父さんのおかげなのにね。
もう何年も帰ってないけど元気にしているの?。」
「えぇ、元気よ。 でも、お姉さんが帰らないから寂しいみたいね。 いつも話題はそればっかりよ。
春奈は元気にしているだろうか?病気はしてないだろうか?いつも心配しているの。」
親の愛情は真っ直ぐに娘に注がれる。 たとえ娘がそれを拒んでも何の障害にもならない。
「そうそんなに心配してるの。 今度裕美を連れて帰る事にするわ。 顔を見せて安心させてあげたいわ。」
「本当!2人とも喜ぶわ。 私がここに来た甲斐が有ったってものね。」
こんなにも春奈の事を思っている父と母に意地を張って頑なに援助を拒んできた。
「私って親不孝な娘ね。」 春奈は心の中で2人に詫びた。
「所で今は生活は大丈夫なの?。」
「心配してくれてありがとう。 お給料なんて知れているけど贅沢さえしなければ親子2人が食べるには十分よ。」
自然と笑みが零れる。 前だったらそんな事を心配して呉れなくってもいいと強情を張って居ただろう。
今は自然に夏海の気持ちを受け入れる事が出来る。
「前は結構派手だったのに裕輔さんと結婚して慎ましくしてたものね。」
「それに野村のお義母さんから頂いたお金もあるのよ。 どれだけ助かったかわからないわ。
私が仕事と育児に疲れて身も心もボロボロになるのを見通していらしゃったのね。
だからベビーシッターを雇って体を休めさせて貰ったの。
裕美には悪いと思ったけど十分睡眠を取って気力も体力も回復して行ったのよ。」
「私に言ってくれたらすぐに飛んで来たのに。 私達って姉妹じゃないの!水臭いわよ。」
「今はそう思えるけどあの時は意固地になってたのね。 自分1人で立派に育てて見せるって思ってね。
でも、これからは夏海の力も借りるかも知れないから覚悟しといてね。」
笑って以前のように悪戯っぽくウインクしてみた。
「いいわよ何でも言ってきてね。」
夏海は春奈の気持ちが以前のように前向きになったのを感じた。
その精神的な落ち着きを取り戻したように穏やかな顔をしている姿は輝いて見えた。
「夏海、今日は時間があるの?。」
「暇だったら買い物に付き合って貰おう。」 気持ちが爽やかになったら自分を少し着飾りたくなった。
裕美の物は買っていたが自分の物はここ何年も買っていなかった。
前は着道楽の春奈って言われていたのが何と言う事なんだろう。
幸せもまず外見から始めて見ようかと思っている。 女の浅はかな知恵かも知れないがそれでもいい。
「お姉さん何でも言って!付き合うから。」
「お洋服を買おうかなって思ってるけど、最近の流行って分からないから夏海に教えて貰わないといけないね。」
「あら、どう言う心境の変化かしら?お姉さんが着飾る気になってくれたのね。 でも、うれしいわ。」
「私も色々と考えたけど少し着飾って気持ちに潤いを持って見ようと思うの。
今まではあまりにも気持ちに余裕が無さ過ぎたわ。 物事もすべて前向きに考えて見たいの。」
「そのお洋服は私にプレゼントさせて!。」
「いいわよ、それぐらいのお金はあるのよ。 夏海も主婦だから節約しないといけないわ。」
「お願い!お姉さんが明るく元気になったのが嬉しいの。 その記念に私に買わせて。」
「わかったわ、夏海ありがとう。」 2人は裕美を連れてマンションを出た。
まず夏海に進められて美容院で髪をカットしてお化粧も直して貰った。
久しぶりに渋谷に出てデパートに入った。 渋谷は高校時代の思い出深い街だった。
色々お買い物をして下着、ブラウス、スカートを買った。 夏海がパステルレモンのワンピースを買ってくれた。
試着したのを見て似合っているって言われ裕美も嬉しそうに見上げた。
春奈も気に入ったのでそのまま着て今度は化粧品を買った。 裕美にも何着かのお洋服を買ってあげた。
買い物を終えた2人は裕美を連れて近くの喫茶店に入った。
「お姉さん、高校の頃のようにパフェーでもたべようか。」
「そうね。 出来ればあの頃に戻ってみたいね。」
あの頃の春奈は輝いていた。 親友の友華と恵理が居て裕輔も居た。
脳裏にあの頃の思い出がパノラマのように浮かんでくる。 パフェーを食べながら夏海が裕美に声をかけた。
「裕美ちゃん、今日のママって綺麗ね。」
「うん、きれいだよ。 でも、あたしいままでのママってあまりすきじゃなかったの。」
「えっ、どうして?。」
「だっていつもおんなじようなじみなおようふくをきてきれいじゃなかったの。 でもきょうのママってだいすきよ。」
「ほら、お姉さん子供は正直よ。 裕美ちゃんのためにもおしゃれを楽しんだら。」
「そうだったの。 裕美、今までのママを許してね。」 裕美に笑いかけてその頭を優しく撫でた。
その笑顔は自然に心の中から湧き上がって来た。
「こんな気持ちになったのは何年ぶりだろう?。」 春奈は自分の気持ちの変化に驚いている。
「私はお姉さんがここまで立ち直ってるとは思ってなかったわ。
前は明るく元気に振舞ってるけどどこか無理をしているような気がしてたの。
でも、今日のお姉さんは自然に振舞っているし穏やかで明るい雰囲気をもってるわ。 本当に嬉しいわ。」
「ありがとう。 夏海にも色々と迷惑をかけたわね。」
「私はいいのよ。 でも、立ち直るきっかけって何だったの?。」
「そうね、婦長さんに言われた言葉が大きかったわ。 私の事を本当に心配して色々と言ってくださったの。
自分の心が幸せで満たされてないと子供を幸せに出来ないって言われたのよ。
だからまず私が幸せにならないといけないなって思ったら心が晴れてきたの。」
「婦長さんにお礼を言わないといけないね。」
「そうだね。 それとね今までは裕美を可愛がってばかりいたけど、これからは少し厳しく躾けようと思ってるの。」
「えぇぇ〜!きびしくするのぉ?。 あたしいやぁ〜!。」
「裕美ちゃん、そんな事を言うとまた元のママに戻っちゃうよ。 それでもいいの?。」
「いまのママのほうがいいよ!。 ママ、ひろみいいこでいるからやさしくしてね。」
「大丈夫よ。 裕美はいい子だもん。」 春奈は隣に座っている裕美を優しく抱きしめた。
「よかったわね、裕美ちゃん。」
「うん。」 裕美は嬉しそうに目を輝かした。
「それで仕事はどうなの?。」 夏海が仕事の事を聞いて来た。
「順調よ。 看護婦は私の天職だと思ってるし、先生達や婦長さんにも可愛がって貰ってるの。
そして、結構若い子たちが慕って呉れてるのよ。」
「へぇ〜人気あんのね。 職場の人間関係もよさそうじゃないの。」
「そうよ!今では婦長さんより私の方が好かれているの。」
「自分でそう思っているだけじゃないの?。」
「本当よ!前は雰囲気が暗かったんで敬遠されてたけど今では相談を持ちかけられるの。
私はあの子達にとって少し年の離れたお姉さんってとこかなぁ。」
「そうなの?ずいぶん明るくなったものね。」
「主任って頼ってくれるの。 私から婦長さんに言ってくださいよって言われる事もあるのよ。
それと私が帰ろうとするとたまにはカラオケでも行きましょうよって言ってくる子もいるの。」
「たまには付き合ってあげたら。 付き合いが悪いと嫌われるわよ。」 可笑しそうに笑ってる。
「でも、裕美が待ってるのよ。 そんな事出来ないわ。」
「だったら私に電話して。 裕美ちゃんの面倒ぐらい見てあげるわよ。
たまには外の空気を吸って気分転換しないと、感性がさび付いて自分の殻に閉じこもっちゃうよ。
昔のお姉さんは何にでも興味を持ってたわ。」
「そう言えばそうだったわね。 夏海、そうなった時は裕美の事頼むね。」
「うん、いいわよ。 裕美ちゃん、ママにもたまには気晴らしをさせてあげようね。」
「うん、たのしんできて。 すこしぐらいさびしいのがまんする。」
「裕美ちゃんって偉いのね。」
「裕美、ありがとう。」 楽しそうに話す春奈を夏海はうれしそうに見つめた。
「お姉さん、私前から一度聞いてみようかなって思ってたけど、男の子から女の子になって幸せだった?。
それとも不幸だったの?。」
夏海の突然の質問に春奈はしばらく考えて答えた。
「そうね、最初は戸惑ったけど体が慣れるに従って女の子っていいなって思ったわ。
体の感じもいい感じだったしお友達も出来て恋も出来たでしょう。
裕輔が死んだ時は女でなかったらこんな想いをしないでもよかったのにって思って泣いたわ。
裕輔の事を思うと本当に胸が痛くなったの。 でも、女になってよかったと思ってるの。
こんな可愛い子にも恵まれたしおしゃれも楽しめるものね。」
「そう、それを聞いて安心したわ。 でも、お姉さんってずいぶん強くなったのね。」
「そうよ!私は弱き女。 されど母は強しって言うでしょ。」
「ねぇママァひろみつかれちゃった。 おうちにかえろ〜よぉ。」 甘えるように体を摺り寄せてきた。
「あっ、御免ね。 ママと叔母さんがお話ばかりして裕美の事を放っていたわね。 お家に帰ろうか。
夏海今日はありがとう!また電話するわ。」
「お姉さん、今度はお父さんの所で会いましょうね。」
春奈と裕美は夏海と別れて家に帰って行った。
半月後春奈は裕美を連れて朝倉の家に帰った。
「お父さん、お母さん、ただいまぁ〜。」 春奈の元気な声が響く。
「お帰り〜〜。」 雅昭と恵子が出てきて久しぶりの娘を見て涙ぐんでいる。
「裕美!おじいちゃんとおばあちゃんよ。 ご挨拶をしなさい。」
「こんにちはひろみです。」
「おぉぉ、裕美ちゃん大きくなったなぁ。」 雅昭と恵子は本当に娘と孫との再会を喜んでいる。
そこには何のこだわりも無かった。 むしろこだわっているのは春奈の方かもしれない。
意固地になっていた自分の愚かさが父と母に甘えきれない。 恥ずかしさが先に立つ。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。 今までの親不孝を許してね。」 そんな想いで見ていた。
「春奈、早く上がりなさい。」 父がやさしく声をかけてくれた。
「えぇ、でもお父さん達に心配をかけたからここに来るのって結構敷居が高かったわよ。」
「何を言ってるんだ!。 自分の家じゃないか。 誰に遠慮する事があるんだ。」
「お父さんありがとう。」 父の温かい言葉に涙が溢れてきた。
家に上がって久しぶりに母の手料理を食べた。 その味は懐かしくて美味しかった。
「お父さん、お母さん、色々と心配かけて御免なさいね。」
「そんなことはいい。 それだけ心の傷が深かったようだね。 でも、明るくなって元気そうじゃないか。」
「そうね。 もう以前の私じゃないから安心してね。」
「それはよかった!春奈が居なかったから寂しかったよ。 これからはちょくちょく帰って来て貰いたいね。」
「えぇ、私もそのつもりでいるの。 これからは今まで出来なかった分親孝行をするからね。」
「あまり期待しないでおこうか。 春奈には何度裏切られたか判らないからな。」
「何!それって・・・・お父さんの意地悪ぅ。」 ぷぅ〜と頬を膨らして横を向いた。
「ハハハ〜!春奈のそんな顔を見るのも久しぶりだなぁ。」
雅昭は可笑しそうにお腹を抱えて笑った。 久しぶりにこの家にも笑いが戻った。
「いいじゃないの。 お父さんはそれだけあなたが帰ってきたのがうれしいのよ。」
「えぇ、わかってるわ。 お父さんの冗談はいつもの事よ。」
「春奈、何か欲しいものはないか?。 昔のように甘えて見ないか。」
事故で女の子になってからは何かと理由をつけて甘えてお小遣いを貰っていた。
「いいわ!甘えてあげる。 パパァお洋服を買うからお小遣い頂戴〜!。」
雅昭の首に甘えた声を出して抱きついた。 春奈に言われた雅昭は嬉しそうにバックから封筒を出して手渡した。
中には渡そうと思って用意しておいたお金が入っている。
「ありがとう、お父さん。 大事に使わせて貰うわ。」
気持ちを入れ替えるとこんなにも素直になれるのだろうか?。 意地を張っていた自分の行為が恥ずかしい。
でも、そんなわだかまりも再会を果たした事で綺麗に心の中から消えて行った。
また元の打算の無い幸せな家族に戻っていける。 それが嬉しかった。 そして家族の愛と言う幸せを手に掴んだ。
「春奈は今では裕輔君の事をどう思っているんだ?。」
「裕輔は私の心の一部よ。 裕輔がそこから出て行く事もないし私が裕輔を忘れる事は有り得ないの。」
今では前ほど裕輔の事を思い出さなくなった。 以前のように思い出しても胸が痛くなって涙を流す事もなくなった。
しかし忘れたわけではない。 裕輔との楽しかった思い出が春奈の心の中に取り込まれて同化している。
死者は無敵だ。 生きていればいい所ばかりでなく悪い所も見えてくる。
でも、思い出となればいい思い出しか思い出さない。 それが純粋に心の中で培養されて行く。
「裕輔さんは幸せね。 春奈にそれだけ思われているんですもの。」
「そうよ。 裕輔は私の中で永遠に生き続けるのよ。」
「所でこの街に帰ってくる気はないか?。 お父さんは春奈に帰って来て欲しいと思っている。」
「私も帰って来ようかなって思ってるの。 来年は裕美も小学校に行くから私の行った所に行かせたいの。」
「それだったら近くに家を探さないといけないな。」
「お父さんその事だったら心配しなくってもいいのよ。」
「どうして?。」 明るく笑っている娘に雅昭は戸惑って怪訝そうに聞いてみた。
「まだ話していないけど野村の家に帰ろうかなって思うのよ。
野村のお義父さんもお義母さんも私の事を娘みたいに可愛がってくれてるし、裕美の為にも帰った方がいいと思ってるの。
これからはこの街に帰ってみんなに頼ってみたいわ。 1人で生きて行くのってもう疲れちゃった。」
「そうか。春奈がそう思っているのならそうすればいいよ。 野村さんの所だったら近くていいな。」
「本当ね。 夏海は滅多に帰って来ないから、春奈が帰ってくれればこんな嬉しい事はないわ。」
「お母さんありがとう。 でも、夏海もそんなに帰って来ないの?。」
「えぇ、2ヶ月に1度帰って来ればいいほうよ。
お父さんは仕事で会ってるからいいかも知らないけど私は寂しかったの。」
「そうだったの?お母さんに寂しい想いをさせてしまって御免ね。 私達って悪い娘ね。」
「いいのよ。 でも、これからは春奈が近くに居ると思えばそれだけでも嬉しいわ。」
「春奈、お母さんの為にも早く帰って来てくれないか。」
「いいわよ。 今度野村のお義母さんにお願いして出来るだけ早く帰ろうと思ってるの。 お母さん待っててね。」
「春奈ありがとう。 さすがはお姉さんね。 でも、無理しちゃダメよ。」
「お父さん、お母さん、今度みんなを誘って温泉にでも行かない?。」
「いいわね!。 お父さん、行きましょうよ!。」
「うん、ここ何年も旅行らしい旅行はしていないから温泉ぐらい行くか!。」
「後は夏海と野村の家だけね。 私が電話すればいいって言ってくれるわよ。」
「そうだな。 夏海には私からも言っとくよ。」
「お母さん、私が意地を張ってた為に寂しい想いをさせたのね。 温泉では背中を流してあげるね。」
「いいのよ。私は春奈が明るく元気になってくれただけで嬉しいの。」
「お母さん、ありがとう。」 春奈は恵子に抱きついて涙ぐんだ。
「私が意固地に心を閉ざした為にみんなに寂しい想いをさせてしまったのね。」 心の中でみんなに詫びた。
日が暮れるまで楽しく家族の団欒を楽しんだ。
「あっ、もうこんな時間ね。 お父さん、お母さんまた来るわ。」
「あぁ、いつでも帰っておいで。 待ってるよ。」
「おじいちゃん、おばあちゃんさようなら。」 裕美が可愛い手を振る。
「さようなら。 裕美ちゃんも元気でね。」 2人は幸福に包まれて帰って行く。
10月の始めに春奈は姑の園子に呼ばれて野村の家を訪れた。
座敷で待っていると園子が和服の入った包みを持って入ってきた。
包みを開けると中には総絞りの訪問着と佐賀錦の帯が入っていた。
白を基調としているが袖や裾にかけて桜が散らしてあって華やかな気がした。
「春奈さん、これは私の若い時のものだけどあなたにどうかなって思っているの。
来年は裕美ちゃんの入学式だからその時に着てみたらいいのよ。」
「お母さん、こんな高価なものを貰ってもいいの?。」
「いいわよ。 いずれ私の着物はすべてあなたの物になるのよ。」
「わかりました。 ありがたく頂きます。」
春奈は園子の好意を素直に受けた。 野村の家は子供は裕輔しか居なかった。
その裕輔が死んだ今となっては後継ぎとしては春奈の産んだ裕美しかいない。
舅の裕康も姑の園子も春奈の事を実の娘のように接してくれた。
心に傷を負った春奈を温かく見守って何かと面倒を見てくれた。
それもさり気なく行って心理的な負担をかけなかった。 援助を援助と思わせない心配りをしてきた。
それが1人息子の裕輔が愛した春奈への思いやりだった。
2人は裕康が丹精こめて手入れした庭を眺めてお喋りを楽しんだ。
色々なお話が出たが春奈の性格についての話題が出た。
「春奈さん、あなたは与えられた場所でその役割を演じきれるって言う特異な性質をしているのね。」
「お母さん、私にはそんな力はありませんよ。」
「その力に気付かないだけよ。 あなたはその立場立場で性格を変容させて来たの。
たとえば男の子から女の子になった時は見事にコギャルに変身して高校生活を楽しんでいたわ。
その変身振りを見てあなたには元々そう言う素質があったのかなって疑ったの。
でも、卒業して看護学校に行くようになると清楚な学生を演じて、看護婦になるとそれに相応しい雰囲気を出していた。
裕輔が死んで妊娠・出産・子育ていつも最善の役割を果たしていたのよ。」
「そんな買いかぶりですよ。」
「いいえ!私はずっと見守ってきました。 だからあなたの事は心配していなかった。
いつかは心の傷を癒して立ち直ってくれるものと信じていたの。
でも、あなたの事を心配しているお父さんにはお前は冷たい女だと罵られたのよ。」
「そうだったんですか。 私は何にも知りませんでした。 ありがとうございます。」
「お父さんも私もあなたの事を本当の娘のように思ってるの。 遠慮しないで甘えて欲しいのよ。」
園子の言葉を聞いて以前から考えていた事をこの機会に話してみようと思った。
「お母さん、お願いがあるの。」
「何かしら?。 春奈さんが願い事なんて珍しいわね。」 園子は嬉しそうに春奈の言葉を待った。
「私、この街に帰って来たいと思ってるの。 お母さん、このお家に帰って来てもいいでしょう。」
「えっ、この家に一緒に住んでくれるの?。 大歓迎よ!嬉しいわ。 お父さんもどれだけ喜ぶ事でしょうね。」
「お母さんありがとう。 実は前々から思っていたのと、この間朝倉の父と母からもこの街に帰ってこないかと
勧められたんです。 里の母には私が心を閉ざしていた為に大変寂しい想いをさせてしまいました。
ここだったら実家も近いですから母も喜んでくれます。 それと私も主任になって夜勤が増えてきました。
夜裕美を1人で部屋に居させるのも心配でなりません。 ここだったらお父さんもお母さんも居られるから安心です。
裕美には裕輔さんと私が通っていた小学校に行かせようと思ってるんですよ。」
「そうね、裕美ちゃんの事を考えるとここに帰ってきた方がいいかも知れないわね。
朝倉のお母さんも喜ばれる事でしょうね。 これからは元気な顔を見せてあげなさい。」
「えぇ、でも私は野村と朝倉の両方の両親からこれだけ可愛がって貰えるなんて幸せすぎますね。
この街に帰って来たらもう一度あの青春時代を取り戻してやり直して見ようかと思っています。
裕輔さんも見守ってくれている気がします。
春奈、やっと明るく元気になったねって言って呉れてるんじゃないのかなぁ。」
この街は春奈の揺りかごだ。 ここで生まれて成長して飛び出した。
裕輔の死で心に傷を負い人々の愛と時間の経過によって傷は癒された。
今一度失われた時間をこの街で取り戻してもいいのではないだろうか。
「春奈さん、やっと元の春奈さんに戻ってくれたのね。 嬉しいわ。 裕輔もきっと喜んでいるわ。」
「えぇ、でも我が侭を言って苦労をお掛けするかもしれませんよ。」
「そんな苦労だったらいくらでもかけて頂戴。 娘と思っている春奈さんの事を苦労とは思ってないわ。
お父さんもあなたの事が実の娘のように可愛いらしいの。」
「そう言って貰える私は幸せですね。 これからは私も遠慮しないで言いたい事も言います。
お父さんにも甘えさせて貰います。 お母さんも私の悪い所はドンドン叱ってくださいね。」
「春奈さん、あなたは強くなったのね。」 園子は嬉しそうに微笑んだ。
「これからはおしゃれも楽しもうと思っています。 裕美に綺麗でないママは嫌いだと言われました。
でも、裕美のためではなく自分の為にもおしゃれをして行きたいと思っています。」
「結婚したての頃のあなたは美しく輝いていたものね。
あのはつらつとした笑顔と明るい笑い声に気持ちが癒されたものだったわ。
裕輔が死んでここ何年かは影のある顔をしていたのよ。
でも、今日のあなたは穏やかな顔をしているわ。 もう大丈夫ね。」
「はい、長い間ご心配をおかけしました。」 春奈は満面の笑みを園子に向けた。
「それでいつ頃帰ってくるの。」
「向こうの家の整理もありますがお正月はこちらで迎えたいので12月までには帰って来たいと思ってるの。」
「もう2ヵ月もないのね。 お部屋を片付けないといけないわ。」
園子は春奈達親子を2階に住まわせようと思っている。
8帖の和室と洋間に6帖の洋間があって小さな納戸とトイレも付いている。
「でも、それまでの間裕美ちゃんの事が心配ね。」
「そうですね。」
「春奈さん、もっと早く帰って来なさいよ!。 朝倉のご両親も早く帰って来るように言って居られるんでしょう。」
「えぇ、そうですね。 でも、引越しの準備をしないといけないんですよね。」
「取りあえず当座の身の回りの物と家具なんかを運べばいいわ。
マンションはそのままにしといて後で小物は追々運べばいいのよ。 私も手伝うからそうしなさいよ。」
「じゃあそうします。 お母さん、今月中に帰ってきましょうか。」
「そんなに早く帰って来れるの?。 嬉しいわ。」
「思い立ったら早い方がいいですよ。 これからは忙しくなりますね。」
春奈はバックから携帯電話を取り出して夏海にかけた。
「夏海、私よ。」
「あっ、お姉さん何かあったの?。」
「うん、ちょとね。 私、月末までに野村の家に帰って来ようと思ってるの。 引越しを手伝ってくれない?。」
「へぇ〜、帰る気になったの?。 そう言えばお父さんもそんな話をしていたわね。 いいわよ、手伝ってあげる。
お母さんもお姉さんが近くに帰れば喜ぶんじゃないのかなぁ。」
「その話はまたしようね。 じゃ〜頼んだわよ。」 そう言って携帯電話を切った。
「お母さん、引越しは夏海が手伝ってくれますから大丈夫ですよ。」
「そうね、夏海さんとあなたは仲のいい姉妹ですもの。 それでは私は2階を片付けようかな。
帰って来たら2階を使えばいいのよ。 この事はお父さんに話しておくわ。」
「でも、帰ったら帰ったで裕美の事でお母さんの負担が増えるんじゃないですか?。
私、裕美を今まで甘やかして可愛がってばかりいたから何にも躾けて無いんですよ。」
「いいのよ、娘と孫のためだもの。 そんな事ぐらい大した事じゃないのよ。 それよりお仕事も頑張りなさいね。」
「は〜い、お母さんありがとう。」 今では嫁姑と言うよりも仲のいい母と娘だった。
「この母に甘えて行こう。」 心の中には曇りすらない。
「じゃ〜お母さん今日は楽しかったわ。 お父さんにもよろしく言っといてくださいね。」
「内緒にしといた方がいいかも知れないの。 また、お前1人で春奈さんに会ったのかってひがむのよ。」
「へぇ〜、お父さんって結構可愛い所があるんですね?。 でも、私が帰って来るって言えば喜んでくれますよ。」
「そうなのよ。 図体は大きくてもまるで子供みたいな所があるの。」
「うふふっ。 でも、そんなお父さんって私は好きですわ。」 可笑しそうに口元に手を当てて笑った。
「そうね、根が単純なだけに甘えてあげれば結構喜んでくれるの。 でも、この事は内緒よ。」
「お父さんにお母さんがこんな事を言ってましたよって言いつけようかなぁ〜。」
「ダメよ!お父さんを怒らせると怖いのよ。 そんな事を言うと春奈さんの事を嫌いになるかも知れないわ。」
「ごめんなさ〜い、冗談ですよ。 大好きなお母さんの事を告げ口するはずがないわ。」
「ビックリさせないでよ。 でも、あなたとこうして冗談が言い合えるようになるなんて思ってもいなかったわ。」
「お母さん、これからも宜しくお願いします。」
園子が門の外まで出て手を振って見送ってくれた。
「裕美ちゃん、さようなら。 気をつけて帰るのよ。」
「おばあちゃんさようなら。」 裕美も振り返りながら手を振った。
「春奈さん、体には気を付けるのよ。」
「は〜い。 お母さんも風邪を引かないように気を付けてくださいね。」
これからの生活に期待と希望を感じながら野村の家を後にした。
春奈には心の琴線に触れ合える家族が居る。 気持ちを入れ換えただけですべて望ましい方向に向かっている。
野村の父と母。 朝倉の父と母。 妹の夏海と義弟の信之。 そして、親友の友華と恵理もいる。
すべての人が春奈の幸せをねがっている。
春奈は心の駅で幸せ行きの汽車に乗って走り出した。 もう後戻りする事はない。
先ほどまで降っていた雨は上がって空は晴れ上がり綺麗な虹がかかっていた。
「あっ、ママァきれいなにじだね。」
「そうだね。 あれはきっと天国のパパが裕美の事を見守ってくれてるのかも知れないよ。」
「そうなの?。 パパァ〜〜ありがとう。」
「裕美ちゃん、今日はケーキを買って帰ろうか。」
「ほんとう!うれしいなぁ〜。」
「もう過去は振り向かない。 裕美と2人で未来に向かって歩いて行こう。」
これからも様々な事に出会い楽しい事だけでなく苦しく辛い事もあるだろう。
しかし持ち前の明るく元気な性格で一人娘の裕美に愛を貫いて幸せな人生を進んで行って欲しい。
幸せの絶頂から突き落とされて真の苦悩を味わった者だけに、本当の優しさを人々に分け与える事が出来る
強さが持てるのではないだろうか。
END
さて、みなさん、いかがだったでしょうか。この第6章をもって、「春奈のリターンマッチ(改訂版)」は完結です。
ワタクシは「少年少女文庫」でこの作品に初めて触れたとき、とても感動しました。いくつかのシーンでは涙を流しました。
その感動は、改訂版になっても失われていません。それどころか、適切な加筆によってさらに大きくなっていたのです。
文庫の時もそうでしたが、この作品には感想のカキコがほとんどついていません。確かに、長く、堅い文章は取っつきにくいのかもしれません。
しかし、そういう理由でこの作品を避けてしまっては、もったいないではありませんか。
幸い、この「改訂版」では章立てになっています。1つづつ、じっくりと読んでみてください。最初は文字の上を視線がすべるだけかもしれません。
しかし、2度3度と読み返すうちに必ず心の中に訴えかけてくるものがあります。それを味わってください。
より多くの方に、この感動が行き渡りますように。
2001.05.22 mk8426