春奈のリターンマッチ:第3章
作: しろいるか
夏休みになって春奈はベットに寝転がりながら感傷に耽っていた。
「あれからもう1年が過ぎちゃった。」 この1年を思い出して見た。
事故で体を失って夏海の遺伝子を使って女の子として再生して、学校ではみんなに受け入れて貰った。
お友達の出来て勉強も理解出来るようになって幼馴染の裕輔とはみんなが認める恋人となって行った。
「あたしって男の子だったんだよねぇ〜。」 自分に問い掛けてみた。
いくら思い出そうとしても男の子の時の体の感覚が思い出せない。
「立っておしっこしてたんだけどあれってどんな感じだったのかなぁ〜?。」
女の子になって座ってしている。 終わったら拭かないといけない。
最初は面倒だと思っていたが今では当然の事として違和感なく処理をしている。
逆に男の子のものが自分に付いているのを想像すると嫌悪感を感じた。
「気持ち悪い!やだやだ男の子って女の子になれてよかったのかも知れないなぁ〜。」
男の子の毛深く角張った体より女の子の丸みのあるすべすべした体が好きだ。
肌もしっとりと瑞々しくて白く透明感がある。 体も軽く柔軟性もあって綺麗だ。
記憶を遡ってみた。 去年の夏に春奈は男女の性の接点を超えて変身してしまった。
16才までの由紀夫の人生。 そしてこれから時を重ねていく女の子の時間。
今では親友として接している友華とは去年の5月に男の子として初体験を経験していた。
「あたしも裕輔とSEXするのかなぁ〜?。」
ぼんやりと思っていると恋人になった裕輔の顔が浮かんでくる。
甘酸っぱい切ない想いに包まれる。 裕輔の事が愛しく思えて目が潤んでくる。
頭の中が痺れてキスをしている姿を想像した。 でも、何かに気づいたように現実に立ち戻って体を起こした。
「あっ!あたしって裕輔とキスもしてなかったんだぁ。 夏の思い出ぐらい作りたいなぁ〜。」
そんな想いにとらわれていると突然携帯が鳴った。 着メロの軽快なメロディーが響く。
このメロディーは友華からだった。
「友華どうしたの?・・・・・。」
「海に行かない?。 今度の土曜日に恵理と夏海ちゃんを誘って行こうよ。 もちろん!大事な彼も一緒よ。」
「裕輔も誘うの?恥ずかしいわ。 2人でからかうに決まっているんだからぁ〜。」
「大丈夫よ、からかったりしないから。」
「ほんとに?。」
「約束するよ。 だからいいでしょ?。」
「わかったわ。 裕輔と夏海にはあたしから伝えておくからね。」 しばらくお話をして電話を切った。
部屋を出て隣のドアをノックした。 ドアが開いて夏海が顔を覗かせた。
「お姉ちゃんどうしたの?。」
「海に行こうと思うんだけど夏海も一緒に行かなぁ〜い?。」
「あたしが行ってもいいの?。」
「友華と恵理から連れて来てっていわれたの。 ねぇ〜、いいでしょう?。」
「そうね、行ってもいいけどその前に水着を買わなくちゃ〜。 お姉ちゃん水着持ってないでしょう。」
去年まで男の子だったから女の子の水着は1枚もない。 あるのは学校で使うスクール水着しかない。
次の日にママと夏海の3人でデパートに水着を買いに行った。
売り場にはカラフルな水着がたくさんある。 色々と見て回った。
「ワンピースにしようかな?。 それともビキニがいいかなぁ?。」
春奈が迷っていると夏海はさっさとワンピースを買った。
「ワンピースもいいけど裕輔だったらビキニを喜ぶだろうなぁ。」
「春奈、まだ決まらないの?。」 ママだ側にやってきた。
「ママ、あたしねビキニにしょうかなって思っているんだけど可笑しいかなぁ?。」
「うぅぅん、春奈はスタイルいいから似合うかもしれないね。 彼に見せたいのね、いいわよ。」
恵子が可笑しそうに笑った。 ママに笑われて頬を赤らめながら頷いた。
「裕輔、遅いよ。 早く来なさいよ。」
「そんな事を言ってもみんなの荷物を持ってるんだ。 これじゃ〜荷物運びに来たようなものだよ!。」
「そんな事を言わないの。 後で目の保養をさせてあげるからね。」 春奈は振り向いて笑った。
「そうよ!美女4人の水着姿がなんてめったに見れないわ。」
4人は裕輔と別れて更衣室で着替え始める。
「いいなぁ〜、春奈と夏海ちゃんってスタイルいいのね。 あたし自信なくしたわ。」
恵理が側にきて羨ましそうに2人を見つめた。
2人は同じ体形でプロポーションもいい。 70のDカップ、ウエスト57、ヒップ85 理想の体形をしている。
「でも、恵理も大きかったんじゃ〜ないの?。」
「あれは寄せて上げるブラのおかげよ。 プロポーションに悩みの無い人に言われたくないわ。」
「そうだったの。 ごめんねぇ。」
「でもその水着可愛いわよ。」
2人でお話をしていると後ろから友華が忍び寄って水着姿の春奈の胸を掴んだ。
「きゃ〜〜、友華!何すんのよぉ〜。」
「なんで元男の子なのに純女のあたし達より胸が大きいのよ。 悔しいわぁ〜!。」
2人はBカップとCカップしかない。 コンプレックスを感じているようだ。
「しかたないでしょ?。 あたしの体は夏海のコピーなのよ!。 文句があったら夏海に言ってよ〜。」
「2人ともお姉ちゃんをいじめないで。 親友なんでしょう?。 初めての水着姿だから許してやって。」
恵理と友華の2人は目を合わせながら笑った。
「冗談はこれくらいにしとこうかなぁ。 でも、春奈の体ってやわらかいのね。 羨ましいわ。」
2人の言葉に全身が真っ赤になっていく。
「ほらほら、早くしないと彼がお待ちかねよ。」
外に出て砂浜の方に歩いて行くと裕輔が待ちくたびれたようにあきれていた。
「遅いなぁ〜。 待ちくたびれたよ!。」
「御免ね。 じゃ〜ん、春奈の水着のお披露目だよぉ〜!。」
ニッコリ笑って友華と恵理は春奈の両腕を持って背中をドーンと押した。
2人に背中を押された春奈は勢い余って裕輔の胸に飛び込んで行った。
「きゃ〜〜!。」 よろめきそうになった春奈をしっかりと支えてくれた。
「裕輔、御免ね。 2人とも危ないじゃないの!。」
「お2人さん!お似合いよ。」 友華が悪戯っぽく笑った。
「友華のバカァ〜!知らないからねぇ。」 顔が赤くなっていく。
「野村君、春奈の事お願いね。 あたし達泳いでくるよ、夏海ちゃん行こうよ。」
「お姉ちゃん頑張ってね。」 夏海も笑いながらついて行った。
「あっ、夏海ぃ〜待ってよ。」 呼び止めたが聞こえない振りをして行ってしまった。
後に残された2人は砂浜に座ってお話を始めた。
しばらくお話をしていると目の前にあるバストに魅了させて裕輔が思わずタッチしてしまった。
「も〜う、裕輔のH!許さないからねぇ〜。」
胸を触られて怒ったように頬を膨らまして睨んだ。 しかしそれは演技だった。
「そんなに怒らないでもいいだろう?。 手がすべったんだよ。」 立ち上がって逃げ出した。
「待てぇ〜〜。」 逃げる裕輔を追いかける振りをしてわざと大袈裟に悲鳴を上げて倒れた。
「きゃ〜〜、裕輔ぇ!足が肉離れ起しちゃった!。」
裕輔は春奈の悲鳴に慌てて側に駆け寄って見ると顔をしかめて痛そうにふくらはぎをさすっていた。
「春奈!大丈夫か?。」
心配して覗き込むと急に抱きついて来て腕をしっかりと背中の方に回した。
「へっへぇ〜、裕輔捕まえたぁ〜!。」
「あっ、騙したなぁ!。」
「騙される方がバカなんだよぉ。」 にっこり笑っている。
「悪かったよ、御免な。」
「うふふっ、許して・あ・げ・る。」 そう言って春奈は顎を上向きにして静かに目を閉じた。
「いいのか?。」 裕輔が肩を抱いて唇をそっと近づけてきた。 2人の唇が重なっていく。
重なった瞬間に体中に電流が走る。 体が痺れて頭の中が真っ白になって何も考えられない。
体から力が抜けて崩れそうになるのを下から裕輔が支えてくれた。
時間だけが過ぎ去っていく。 どれぐらい過ぎたのだろうか?裕輔がゆっくりと唇を離していった。
春奈が目を開けると少し潤んで頬は上気していた。
そこへ海から友華、恵理、夏海も3人が上がってきた。
「春奈どうしたの?顔が赤いよ。 なんかあったのかなぁ〜?。」
「なんでもないわよぉ。 気のせいよ。」
「なんか怪しいわね!。 キスでもしてたんじゃないの?。」 恵理が腕組みをして見つめた。
「そんなことよりもお昼だからお弁当を食べようよ。」 夏海が側から言ってくれた。
「も〜う、お昼になったの?。」
「裕輔!今日のお弁当はあたしの手作りよ。 うれしいでしょ〜!。」 目を輝かして裕輔を見つめる姿は可愛い。
「えぇ、春奈の手作りかぁ。 食べれる物あるのかなぁ〜?。」
「失礼しちゃうわねぇ〜!。 そんな事を言うんだったら食べて貰わなくってもいいわ。」
膨れ面で睨んで背中を向けた。 そんな春奈を見て慌てて裕輔は謝った。
「ごめん!ごめんよ、冗談だよ。 そんな事を言わないで食べさせてくれよ。」
「裕輔さん、大丈夫よ。 お姉ちゃんの腕前はあたしとママに仕込まれて女の子としてはかなりのレベルよ。」
春奈は女の子になってママと夏海にしごかれて家事を躾られた。
由紀夫だった時はろくに部屋の掃除もしなかった。
お気軽な性格で今日もあれば明日もあるって思って問題を先延ばしにしていた。
しかし女の子になってママに文句を言われパパにもお説教されてシブシブ掃除、洗濯、お買い物、
そして、炊事も仕込まれていった。 今ではハイティーンのレベルまで上達している。
特にお料理は大好きになって毎朝夏海と交代でお弁当を作っている。
「裕輔!あたしの目を見て。 これからは大事にするって誓ってくれる〜ぅ?。」
「これからは春奈の事を大事にするよ。」 裕輔が俯き加減で答えた。
「春奈、許してあげなさいよ。」
「わかってるわ食べてもいいのよ。 ちょっと意地悪をして言って見ただけなの。 ごめんねぇ。」
「あまり脅かさないでくれよ!俺は春奈に嫌われたら生きていけないよ。」
「またぁ〜裕輔ったらぁ!冗談ばかり言ってちゃぁダメだよ。 早くお弁当を食べようよ。」
みんなでお弁当を広げて食べ始めた。
バスケットにはおむすび、サンドイッチ、おかずも色々取り揃えて丁寧に入れられていた。
水筒には冷たい麦茶が入れられている。
「おいしいわねぇ春奈って料理上手なのね。 今度あたしに教えてぇ〜。」
「ほんとね!あたしも習いたいわ。」
「あたしに習うより夏海に習ったら。 夏海の方が上手よ。」
「あたし達は春奈に習いたいの!。」
「そのお話はまたしましょうね。 今日は泳ぎに来てるんだからしっかり遊ばないと。」
その後春奈達は泳いだり寝転がって肌を焼いた。 日差しが眩しい。
「のど渇いたね〜。 裕輔ぇ!カキ氷でも買って来てぇ〜。」
「あたしも!。」
春奈が寝そべっている裕輔の方を振り向くと友華たち3人も同時に叫んだ。
「はいはい。 この哀れな召使に何なりとお命じください。 お嬢様方。」 裕輔がおどけて見せる。
「何よ?それ!。 裕輔乗りすぎだよ。 悪乗りもいい加減にしないと怒るよ。」
「わかったよ。 で、ご注文は?。」
「あたしはイチゴ。」 「レモン。」 「あたしのイチゴ。」
「ご免なさい。 裕輔さん、あたしもイチゴでお願いします。」 夏海は裕輔に頭を下げた。
裕輔の買って来たかき氷を食べて、また日が傾いて行くまで楽しく遊んだ。
楽しかった思い出を胸に疲れた体を引きずりながら家に帰った。
お風呂に入って日焼けして火照った体をシャワーで冷やして2人は春奈のお部屋でお話をしてる。
「夏海ありがとう。 あなたのおかげで助かったわ。」
「いいのよ。 で、どうだったの?ファーストキスの感じは。」 夏海が笑いながら聞いてきた。
「えぇ、頭の中が真っ白になって体中が痺れちゃった。」 恥ずかしそうに赤くなって答えた。
「Cはいつするのかなぁ〜?。」
「知らなぁ〜い!。 夏海の意地悪ぅ。」
「ごめんね。 でも、お姉ちゃんもすっかり女の子になっちゃったね。」
「ありがとう。 夏海これからもよろしくね。」 2人は夜が更けるのも忘れておしゃべりに熱中した。
春奈は夏休みに入ってずっと夏海に勉強を強要されている。
蒸し暑い日2人は夏海の部屋で言い争っていた。
「なんでこんな蒸し暑い日にお勉強をしなければいけないのよ〜。」
「お姉ちゃん、成績を上げないと大学に行けないよ!。 あたしが教えてあげる。」
「いいわよ!。 大学なんて行く気ないんだからぁ〜。」
それでも夏海は春奈を拘束して丁寧に教えてくれる。 そんな真面目な夏海の講義を春奈は半ばあきれながら聞いていた。
「夏休みなんて遊ぶためにあるのよ。 お勉強なんて2学期になってすればいいのよ。」
やっと午後になって解放されて裕輔と一緒にプールに泳ぎに行った。
楽しい時間を過ごして学校の前のロイヤル・ティ・クラブに入っていく。
「こんにちは。」
「いらしゃい、春奈ちゃんか。」 今日のマスターはなんだか雰囲気が暗くて元気がない。
「マスター!どうしたの?。 元気ないねぇ〜。」
「あぁ〜このところ悩んでいる事があって夜もあまり寝ていないんだ。」
「何があったの?。」
「春奈ちゃんに言ってもしょうがないんだけどね。 ケーキに使うフルーツが手に入らなくなったんだ。」
「えぇ〜あのケーキのフルーツがぁ〜!。 どうしてなの?。 あたしにとっても大問題だよ〜。」
春奈達常連客の楽しみのひとつ木苺やブルーベリーを使ったケーキ。 店のオリジナルとして評判の高い限定品。
素材のフルーツの持ち味を生かしてケーキの生地にもこだわって作っているケーキ。
クリームやバターも従兄の戸倉牧場の牧場主、戸倉鋭一に頼んでイギリスから輸入した牛のミルクを使っている。
この牛はマスターの戸倉行則がイギリスで紅茶修行をしているときに出会った牛。
普通日本に入っているイギリス牛はジャージー種が多い。
しかし、戸倉牧場にいるのはイングランド北東部を原産としているショートホーンだった。
日本にはほとんど入っておらず戸倉牧場にいる20頭がほとんどではないだろうか。
そしてその牛から絞ったミルクを遠心分離器にかけて作った生クリーム。
水分が普通の生クリームより少ない。 その生クリームを使って作られてフレッシュバター。
バターは生きている。 出来たてのバターは口の中で軽やかに溶ける。
普通の市販のバターのように変な油っこさはない。 バターは鮮度が命なのだ。
そのようにこだわったて厳選された素材で作られたケーキが食べられないなんて耐えられない。
「実はフルーツを分けて貰っていた果樹園が銀座の大きなケーキ屋に買収されてしまった。
そこの社長に前のようにフルーツを分けて欲しいと言ったら自分の店のケーキを買えと言われたんだよ。」
「どこのケーキ屋なの?。」
「あの天使の翼なんだよ。」
「えぇ〜嘘ぉ〜!。 あの天使の翼が〜。」
銀座の超高級ケーキ店として知らない人はいない。 顧客も芸能人、スポーツ選手、山の手のお金持ち達。
安いケーキでも千円はする。 春奈達には縁のない別世界のケーキ屋だった。
「なんでそんな店があたし達の楽しみの邪魔をするのよ。」
春奈は腹が立って来たがどうする事も出来ない。 がっかりしたような顔で足を引きずって家に帰って行った。
次の日にママの声が家中を駆け巡る。
「夏海ぃ〜どこにいるの?。」
「ママ!夏海だったら朝早くお友達とキャンプに出かけちゃったわよ。」 春奈はドアを開けてママに言った。
「私は何にも聞いてないわ。」
「何か急に決まったらしくて慌ただしく出かけちゃったの。」
「困ったわね!どうしよう?。」 ママは途方に暮れてその場にぺたんと座り込んでしまった。
「ママ、どうしたの?。」
「夏海が佐和子と約束してたらしいの。 夏海が来ないって怒って電話してきたのよ。」
「なぜ叔母さんが怒ってるの。」
「佐和子の会社のイベントのマスコットガールを頼まれていたらしいのと。」
「そうだったの。 でも、夏海がすっぽかすなんて珍しいわね。 ママも叔母さんに怒られて大変ね。
なんだったらあたしが夏海の代わりに行ってもいいよ。」
「本当!春奈助かるわ。 さすがはお姉さんね。」 ほっとしてママの緊張が解けていく。
「そんなことはいいから早く行こうよ。 ママも一緒に行って説明してよね。」
春奈はお洋服を着替えて叔母のいる文化ホールに急いだ。
ママの妹の佐和子は女の子向けの小説や絵本を出版している。
海外のメルヘンチックな物を探し出してそれを日本に紹介しようとしている。
佐和子はイギリスに留学して約10年をヨーロッパで生活し、帰国して翻訳家としての道を歩み出した。
色々な出版社で作品を翻訳して来たが5年前に独立して小さな出版社を始めた。
<ウェールズの虹> これが会社の名前だった。
今日はメルヘンのお話と作品の紹介。 それに来日したイギリスの女流作家によるサイン会がある。
女の子達に会社のファンになって貰うために春から周到に計画していた大事なイベントだった。
会場に着いた春奈達は叔母のいる控え室を覗いた。
スタップと打ち合わせをしていた叔母がこちらに気づいて近づいて来た。
「お姉さん!夏海ちゃんはどこにいるの?。」
「ご免なさい。 夏海はキャンプに行っていないの。 春奈が代わりにやってもいいって言うから連れて来たのよ。」
「夏海ちゃんにも困ったものね。 約束をすっぽかすなんて社会に出て通用しないわ。
まぁ〜いいわ。 春奈ちゃん時間がないから早く支度してね。」
佐和子の少し引きつっていた顔が和らいで、普段のやさしい眼差しに戻って春奈を見つめた。
「は〜い!。 それであたしはどうすればいいの?。」
「ちょっと待ってね。」 佐和子が打ち合わせをしているスタップも方を向いて1人の若い女性を呼んだ。
呼ばれてライトグリーンのワンピースを着た美しい人が近づいて来た。
「何かご用でしょうか?。」
「彩香さん、わるいけどこの子を急いで支度させて。」
「わかりました。 一緒に来て頂戴。」
「は〜い。 よろしくお願いします。」 春奈は彩香の後ろからついて行った。
違うお部屋に連れて行かれて少しメルヘンチックな服装に着替えさせられた。
お部屋の中には春奈と同じ服装をさせられた女の子が2人座っていた。
その子達に彩香さんが声をかけて紹介をしてくれた。
「春奈ちゃん、この2人が真希ちゃんと詩織ちゃんよ。 なかよくしてね。」
「春奈です。 仲良くしてくださいね。」 元気よく挨拶をした。
「あたしこそよろしく。 真希で〜す。」
「あたしもよろしく。 詩織って呼んでね。 春奈ちゃんって可愛いのね。」
「挨拶が終わったとこで時間がないから早く準備しましょうね。」
そう言って出て行く彩香さんに3人はついて入り口の方に歩いて行った。
入り口には美しく飾られたカウンターがあって、その奥にはリボンで飾られた記念品と風船が置いてある。
彩香さんが仕事の手順を教えてくれた。
「まず明るく元気よく挨拶をして真希ちゃんは来た女の子達に署名をして貰って。
後でお礼状を出すから住所もしっかり確認してね。
春奈ちゃんは署名の終わった子にその記念品を渡してね。
詩織ちゃんは春奈ちゃんを手伝って小さい女の子が来たらその風船を渡すの。 いいわね。」
「は〜い わかりました。」 3人は元気よく返事をした。
時間になって正面玄関の扉が開いた。 待ちかねたように女の子達が入ってきた。
「こんにちは!。」
「こちらで署名をお願いします。」
「ありがとうございます。 ゆっくり楽しんで行ってくださいね。」
3人はそう言って女の子達に用意してあった記念品を渡して行く。
「お姉ちゃんありがとう。」 うれしそうに風船を受け取って行く小さな子もいる。
女の子達はみんな会場に入って行った。 3人は控え室に戻って彩香さんの指示を聞いた。
「ご苦労さん。 今度はそこにあるジュースをみんなに配って頂戴。」
「は〜い!。」 お盆にオレンジジュースを載せて会場に入って行く。
「はい!どうぞ。」
「ありがとう!。」
女の子達はうれしそうにジュースを受け取った。 しかし全員に行き渡るには二回ほど往復した。
ジュースを配り終えて控え室に戻ると会場では今日のメインテーマのメルヘンのお話が始まった。
椅子に腰掛けて残ったジュースを飲む。 冷たくてとてもおいしかった。
しばらくは時間があるので3人はおしゃべりを始めた。
「春奈ちゃんってお家どこなの?。」 真希ちゃんが聞いてきた。
「下北沢よ。」
「あたしんち経堂よ。 詩織ちゃんは?。」
「宮の坂よ。 あたし達って近くに住んでるのね。 お友達にならない?。」
「いいわよ。 携帯の番号教えてぇ。」
携帯の番号を教えあって色々なお話をしてると会場ではメルヘンのお話が終わった。
その後の本の紹介とサイン会も無事終わった。
女の子達を見送って控え室に帰ろうと思っていると、叔母の佐和子が笑顔で近づいて来た。
「春奈ちゃん今日はありがとう。」
「叔母さんあたしでお役に立ちました?。」
「おかげで助かったわ。 たまには家に寄って頂戴!沙也香も寂しがっているわ。」
「わかりました。 沙也香ちゃんに今度遊びに行くからって伝えてくださいね。」
春奈が着替えていると真希ちゃんと詩織ちゃんが話しかけて来た。
「ねぇ〜カラオケに行かなぁ〜い?。」
「いいわよ。」
「渋谷に行こうよ。」 渋谷に行ってセンター街にある行きつけのカラオケボックスに入って行く。
3人は色々な曲を20曲ぐらい歌ってすっかり仲良くなった。
その後スペイン坂にあるアンミラでケーキを食べながらお話をした。
日が暮れて遅くなったので道玄坂にあるパパの事務所に行って一緒に家に帰った。
車の中で雅昭から女の子は門限を守らないといけないと説教される。
それを聞きながらパパはやっぱりあたしのことを心配してくれてると思って嬉しかった。
3日後に夏海がキャンプから帰って来た。
「夏海ぃ〜大変だったんだよ。 叔母さん怒っていたわ。」
「お姉ちゃんごめんね。 叔母さんに頼まれていたのをすっかり忘れていたわ。」
「あたしが代わりにやっておいたよ。 叔母さん怒らすと怖いからね。」
「ありがとうね。 今度何か奢るわ。」
「バイト代はあたしが貰ったからいいわよ。」
「いくら貰ったの?。」
「叔母さんにしては結構奮発してくれたの。 1万円よ。」
「そんなに呉れたの!。 いいなぁ〜あたしがやればよかったわ。」 夏海が羨ましそうに春奈を見た。
「叔母さんとの約束を忘れちゃった夏海がいけないのよ。 これは裕輔とデートの時に使おうかなぁ。」
春奈は裕輔と浴衣を着て花火も見に行ったし、ディズニーランドにも行った。
そして、友華達と従姉妹で3歳年下のの沙也香ちゃんを連れて横浜に遊びに行った。
華奢であまり体の丈夫でない沙也香ちゃんを気遣って無理のない日程を組んだ。
渋谷から電車で桜木町まで行って駅前のコーベルで休んで紅茶とミルフィーユを食べる。
サクサクのパイ生地に生クリームとカスタードを合わせてサンドしてある。
店を出てランドマークプラザや横浜ワールドポーターズでショッピングを楽しんでコスモワールドで遊んだ。
楽しい1日を過ごして春奈達は少し疲れ気味の沙也香を気遣って自宅のある代官山まで送って行った。
娘に付き合って呉れた春奈達を佐和子は笑顔で出迎えて車で自宅まで送ってくれた。
夏休みの間遊びまくって2学期まであと1週間しかない。
「わぁ〜大変!あと1週間しかないよぉ。」
春奈はほとんど宿題をしていなかった。 部屋を出て夏海の部屋のドアをノックする。
「お姉ちゃん何か用事?。」
「夏海、お願い!宿題写させて。」
「えぇ〜何にもしてないの。 2学期まであと1週間しかないのよ。」
夏海がビックリしてあきれたように聞いて来た。
「色々と忙しくて出来なかったの。」
「嘘よ!。 忙しかったのは裕輔さんとのデートだけだったはずよ。 時間は十分あったわ。」
「お願いだからそんな事を言わないで貸してよ。 あたし達双子の姉妹でしょ〜。」
「しょうがないわね。 でも今度だけよ!次からはきちんとしてね。」
「ありがとう。 次からは夏海の言う事を聞くわ。」 うれしそうに借りた宿題を持ってお部屋に帰る。
春奈は夏海に借りた宿題を写してなんとか2学期に間に合わせた。