まちがえた責番Extra〜石田君(?)の日常    

mk8426

「いってきまーす」
石田家に明るい声が響いた。最近声が高くなったと近所ではうわさされているようだが、僕は気にしない。
「真樹(まき)ちゃん、忘れ物はない?」
台所から顔を出して、母さんが聞く。
「ないって。それより、僕は真樹(まさき)だからね!」
「だって、女の子になっちゃったんだから、まさき、じゃおかしいじゃないの」
「おかしいもなにも、学校は今学期は男で通すって決めたんだから、朝っぱらから、まき、なんて呼ばれたら出鼻をくじかれたようじゃないか」
「はいはい。いってらっしゃい、まさき、くん」
これが毎日のように繰り返されるんだよね。もうなれたけど。

僕は1ヶ月前、バイト先のスーパーで仕事中に女の子になってしまったんだ。その夜、両親・姉の4人で話し合った結論がこれ。今学期中は男のままで通す。そして、一旦転校した形で新学期から女の子として通う。それで、あと2週間は、学校では「男」として過ごさなくてはならないんだ。
「あーあ、胸が苦しいなぁ」
そう、学校に行くときはわからないように、胸にサラシを巻いてるんだ。もう、苦しくて。おしりのほうは大きめのスラックスをダブッとはいてなんとかごまかしてるんだけど。
「おはようございます」
「よっ、おはよう、石田。あと2週間か、大変だなぁ」
担任の岡先生だ。先生は事情を知っている。両親が僕をともなって一切を説明したからだ。先生のおかげで、体育の授業も免除されている。僕も両親もそこまでは考えていなかったのだが。
「準備の方はできてるのか?」
「はい、制服も採寸してあとはできるのを待つだけですし」
「そうか。じゃ、また後でな」
「はい」
僕は教室へ向かった。

特に何があるわけでもなく、1日の授業が終わった。部活には入っていないので、とっとと下校する。さあ、今日もバイトだ。一緒に帰っている友達と別れ、いつものように店の搬入口から中に入った。

「おはようございまーす」
「おはよう、まきちゃん」
野田さんが事務所の前にいたのであいさつする。
「まきちゃんの男装もあと2週間か。もう見られないかと思うとなんかもったいないわよね」
「なんですか?それは」
「いいからいいから。着替えてらっしゃい」
「はーい」
僕はいつも通り、女子更衣室に入った。
「おはようございまーす」
「あ、おはよう」
レジパートの田中さんが私服に着替えていた。僕は、自分のロッカーを開けると、着ていた服を脱ぎだした。
「大変ねー。でも本当に学校ではばれてないの?」
「さあ。みんな何も言わないからわかんないですけど」
「男の子の視線が変わったりしてないの?」
「今のところ何にも感じませんけど」
僕は、田中さんと話しながら、慣れた手つきで下着を身につけた。そう、ここでは既に僕は女子バイトとして扱われていた。さすがに最初の1週間はみんなの目も怪しげだったけど、今ではみんな元のように接してくれる。あ、「元のように」ってのはおかしいな。ちゃんと女の子として扱ってくれるよ。
「おつかれさまー」
精肉パートの古賀さんが入ってくる。
「おつかれさまです」
「おつかれー」
僕たちもあいさつを返す。
「あ、まきちゃん、おつかれさま。がんばってね」
「はーい」
制服を着終わると、ロッカー扉の内側にある鏡を見ながら髪をとかす。初めのうちはなかなか女の子っぽい髪型にならなかったけど、今ではあっという間にそれっぽくなっていく。髪も伸びたしね。
「まきちゃん、今日もかわいいよー」
田中さんが笑っている。髪型の整え方は彼女に教えてもらったんだよね。
「ありがと」
僕はにこっと笑って、カチューシャをつけると、カラーリップを手に取った。
「もう、どこをとっても女の子よねぇ」
古賀さんが言う。
「そんなことないですぅ」
「そうね、まだ言葉遣いや仕草が、ね」
「でも、だいぶ良くなってきたよね。本当の女の子でももっとがさつな子もいるし」
「まあね」
『あたし、女の子らしい仕草、できてますかぁ』
僕は、両手を胸のところで組んで、ちょっと高めの声色で言ってみた。
「あ、今日はなかなか調子いいわね」
「そうやってると、女の子にしか見えないわよ」
『だって、あたし、女の子だもん』
「そうだったわね」
田中さんが笑いながらロッカーの扉を閉めた。
「じゃ、がんばってね」
「おつかれさまでしたー」
「おつかれー」
僕もロッカーの扉を閉める。田中さんと古賀さんは荷物を手に、店内へと消えていった。夕食材料の買い物でもするのだろう。僕は、レジ長の野田さんのところへ行った。

「おはようございます」
アルバイトの朝礼が行われる。いつものように注意事項と連絡事項が伝えられ、朝礼は終わった。
「今日のレジは・・・」
グロサリーのバイトにレジが割り振られる。
「石田さんは4号、田代さんは6号、俵さんは8号・・・」
あれ以来、僕は4号レジに固定されてしまった。事務室へドロアーをもらいに行く。
「失礼しまーす」

「おつかれさまです」
ドロアーを持って4号レジに行くと、久保さんが3号レジに入っていた。
「ん、おつかれ。今日もかわいいね」
僕の頬が赤くなる。なんか、久保さんって、かっこいい。最近、こんな感覚に襲われるようになってきてちょっと戸惑っている。やっぱり感覚も女の子になってきているのだろうか。僕は、ちょっと恥ずかしくて、返事ができなかった。
「じゃ、仕事があるから抜けるよ。多くなったら呼んでね」
久保さんがレジを抜けた。僕は、ドロアーを入れ、責番を入力した。
「いらっしゃいませー」

7時までフルにレジを打ち、それからお菓子の品出しとかをして、9時前にレジ上げ。二部の本山さんももう驚いたりはしない。
「はい、おつかれさん」
点検レシートを渡しながら、本山さんが微笑む。
「おつかれさまでした」
最近わかるようになってきた。本山さん、僕に気があるんだ。うーん。でも、僕は・・・。

「お、上がってきたな」
事務室へ行くと帰り支度の久保さんがいた。帰りはいつも家まで送ってくれるんだ。
「じゃ、クルマで待ってるからな」
「はーい」
僕はレジの中身を精算機にかけ、レジ日報をつけると更衣室に駆け込み、帰り支度をして駐車場へと急いだ。

「お待たせしましたー」
「ん、相変わらず速いね。じゃ、出すよ」
久保さんの車が動き出す。僕の家に着くまでの10分間、久保さんと二人っきり。そのことを考えるだけで僕の頬は赤くなってしまう。やっぱりこれって・・・。自分の考えが恥ずかしくて黙っているうちに、僕の家に着いてしまった。
「おつかれさまでした」
「おつかれさん。おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は、久保さんの車が先の角を曲がるまでずっと見ていた。それから、玄関を開け、家の中に入った。
「ただいまー」

終わり

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さて、ゆっこさんのカキコから膨らませて、こんなお話ができあがってしまいました。前作の続編というか、番外編です。では、恒例の用語解説を。

・搬入口:商品搬入口のこと。いわば、店の裏口・通用口。商品はもとより、従業員も通常はここから出入りする。
・「おはようございます」:ワタクシの勤務している店では、何時であろうと出勤してきたときのあいさつは「おはようございます」となっています。これは芸能人に準ずるところがあるかな?
・朝礼:あいさつが「おはよう」なら、出勤して、仕事に入る前のミーティングは「朝礼」。たとえ、夕方であろうと「朝礼」。
・精算機:レジの精算は通常、機械で行います。硬貨はまとめて投入すると自動的に種類別に分け、計数。紙幣は1種類ずつ計数機にかけ、枚数を入力。機械によっては金庫の役目を果たすものもあるようです。ワタクシの店の機械にはそこまでの機能はありませんが。
・レジ日報:「何号レジ」は「誰が」「何時から何時まで」打って、「過不足はいくらか」「戻しは何件でいくら分」「取り消しは何件でいくら分」「売り上げはいくら」「客数は何人」「平均客単価はいくら」ということを記録する用紙。ワタクシの店では上記項目ですが、会社によって異なると思います。

 

というわけで、こんなお話となりました。いかがなものでしょうか。「続編はない」なんて書いておきながら、結局書いてしまいました。ま、一応「番外編」であって「続編」ではない、と苦しいいいわけをしておきましょう。「続編」については、今のところ「未定」ということで。
それでは、皆さま、ぜひ感想等を掲示板の方へお願いいたします。ではでは。

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                                                                       2001.01.16 mk8426

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